伊南行政組合が運営する昭和伊南総合病院(駒ケ根市)の経営改革プランがまとまった。医師不足などの影響から急速に悪化した収支を改善し、地域の基幹病院として自立的な経営を維持するための方向性を示している。だが、プランが掲げる「地域住民の安全・安心のよりどころ」として、改革の実行は可能なのか。新たな段階を迎える昭和伊南の現状に改めて触れながら、改革プランの実行に向けた課題、住民の思いなどを通して昭和伊南の在り方を展望する。
「以前は探しても探しても見つからなかったのに、今は空いている駐車場がある」―。市民から聞かれるこんな声が、昭和伊南の置かれた現状を端的に物語る。
昭和伊南は1934年に病床数百床で開業。83年には300床の総合病院として現在地に移転新築した。
医師不足が顕在化するのは2006年ごろから。04年4月から導入されたいわゆる新医師臨床研修制度に伴う信州大学への医師の引き揚げに加え、上伊那地方の産科医の集約化、開業による退職が相次ぎ、その結果とし、06年度に35人だった常勤医は現在、歯科医1人を含む23人に減少した。
勤務医1人がもたらす年間収入は1億円とも1億5000万円ともいわれる。医師が1人でも減ればそれだけ患者数も減ることになり、大きな減収につながる。改革プランでみる昭和伊南の患者数の推移は、整形外科、産婦人科、小児科の常勤医不足が主な要因で、外来、入院ともに07年度から急激に減少傾向が強まった。
年間延べ患者数は、外来は03年度の17万9036人をピークに、04年度16万9856人、05年度15万7559人、06年度15万4412人と減少。07年度は12万6090人に落ち込んだ。
入院は04年度の9万9014人がピーク。これを境に05年度は9万3854人と減少に転じ、06年度9万3639人、07年度7万8246人と減少に歯止めがかからない。
プランでは、「経営状態が急速に悪化したにもかかわらず、これに対する固定的経費(給与費、管理費など)の削減が医業収益の減少に比例して対応できず赤字幅が拡大した」と分析。07年度の経常損失は過去最多の約7億4200万円を計上した。
昭和伊南の医師不足は、救急車の病院別搬送人員にも影響している。
伊南行政組合消防本部のまとめだと、全体に占める比率は、昭和伊南への搬送人員が06年85.7%、07年81.7%、08年75%と推移している。対照的に、伊那中央病院(伊那市)への搬送人員は06年4%、07年7.5%、08年12.7%と着実に高まっている。
昭和伊南には現在、特に整形外科の常勤医がいない。このため同本部では、昭和伊南と連絡を取って対応しているほか、明らかに骨折と思われる場合には伊那中央に直接運ぶケースもあるという。