群馬県渋川市の老人施設「たまゆら」で起きた火災は七人が死亡する惨事となった。出火原因の特定と合わせ、またもこれだけのお年寄りの命が守れなかった原因を徹底的に検証すべきだ。
火災が発生した十九日深夜、施設三棟に入所者十六人と職員一人の計十七人がいた。亡くなった七人はいずれも同じ棟の入所者とみられる。やけどした四人のうち、三人は症状が重いというから被災状況は深刻だ。
お年寄りが入所する施設の火災はたびたび起きている。二〇〇六年一月、長崎県大村市の認知症高齢者グループホームでは七人が死亡した。昨年十二月は福島県いわき市の老人介護施設で二人、今年二月には東京都足立区の老人ホームで一人が犠牲となった。
老人施設に限らず、建物なら火の管理は最優先事項だが、万一の備えも怠るわけにはいかない。
大村での火災を教訓に法令が改正され、一定の建物面積があるグループホームなどはスプリンクラーの設置が義務付けられた。
しかし、小規模施設ではコストの問題などから未設置が多い。
「たまゆら」火災で死者が出た建物にはスプリンクラーがなかった。面積が基準以下のため法令上の設置義務はなかったようだ。
設備と合わせて重要なのは人員配置だ。老人施設や福祉施設の場合、介護を必要とする入所者が多い。火災や地震のとき、自力では避難できない人もいるだろう。
職員一人の当直体制は手薄な印象を受ける。十六人は三棟に分かれて生活していた。連絡や巡回するだけでも時間がかかろう。
ましてや火災の際、職員一人で避難誘導などを行い、入所者全員の安全確保ができるのか。
万一のときを考えると、老人施設や福祉施設は地域との連携が欠かせない。地方では閑静な場所に建設されることが多く、地域の人たちと疎遠になりがちだ。
今回、火災に気づいた近隣の住民が施設に駆けつけ、救助や消火活動に協力したようだ。
ただ、「たまゆら」側は日ごろから住民と関係を深める努力をしていたのだろうか。
高齢化社会で小規模な老人施設は増えている。法規制の外にある施設もあるようだ。行政は地域の実態を早急に把握すべきだ。
火災発生の原因は一つであっても、犠牲を大きくした原因は複合的な場合がある。介護面だけでなく、安全管理面からも設備と人的配置を考えなければならない。
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