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NIKKEI NET

社説 世界不況で試される経営者の手腕(3/21)

 世界的な金融危機と深刻な不況の中で、企業経営者はその手腕を厳しく問われている。上場企業の2009年3月期の連結経常利益は前期に比べ約6割も減る見通しだが、市場の変化や、顧客の新たな需要を的確にとらえて好業績を上げている企業もかなりある。

 業績好調な企業の経営の特徴は、逆風下で多くの企業が戦略を練り直し、苦境の打開と新たな飛躍につなげる際のヒントにもなるだろう。

全体の8%は最高益

 日本経済新聞社の集計では、3月決算の上場企業(金融と新興3市場上場を除く)のうち今期に過去最高の連結経常利益を見込む企業は126社で、全体の約8%に当たる。

 決算期の異なる企業なども含め、好調組の特徴は何か。まず需要を掘り起こす努力という点で、衣料品専門店「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングと、家具・インテリア販売のニトリが注目に値する。両社に共通するのは、製造小売業と呼ばれる業態を生かし、店頭で消費者のニーズを探って、商品の創出に結びつけていることだ。

 ファストリは店頭での売れ行きや店員からの報告などを基に商品を企画し、中国などの工場に生産委託している。東レと提携して開発した発熱・保温効果のある肌着「ヒートテック」は、08年の秋冬で2800万枚を売り切った。客が欲しがりそうなものを自ら低コストで生み出せる点が、単に卸売業者から仕入れて売る小売業者とは違う。

 ニトリはインドネシアとベトナムに自社工場をもち、製造、物流、販売を一貫して手掛ける。自動車メーカーから役員をスカウトして品質管理を担当させるなど、モノづくりにこだわったうえに、昨年5月から4度値下げして来店客を増やした。09年2月期に22期連続で過去最高の経常利益を見込んでいる。

 節約志向やインターネット利用の拡大は消費のあり方を変える。楽天は商品が割安で持ち帰る手間も省けるネット通販事業が好調だった。

 娯楽費を切りつめる消費者が多いなか任天堂は欧米中心にゲーム機の販売を増やした。任天堂の今3月期は円高の影響で経常減益になるが、営業利益では過去最高を更新する見込みだ。健康管理に役立つソフトの開発などゲームの概念を広げ、女性や中高年層もひきつけた。

 不況期には他社が容易にまねできない技術の重要性も増す。日本製鋼所は高温・高圧に耐える特殊な鉄鋼の生産に独自の技術を持ち、原子炉用の鍛鋼製品で世界シェアの約8割を握る。温暖化ガスの排出抑制が課題になり、世界で原発建設が増えているのを背景に、環境・エネルギーに関連した独自技術を企業の最高益に結びつける例といえる。

 価格戦略が功を奏したのはサントリー(非上場)だ。同社は昨年、ビール事業で値上げを他社より遅らせて販売量を伸ばし、同事業で初めての黒字化を達成した。実は06年にも黒字のメドが立っていたが、佐治信忠社長が「目先の黒字化のために経費を惜しむな」と指示し、利益より販売増を優先させた。過去のヒット商品があまり長続きしなかった反省を踏まえている。

 他の好業績企業も過去の失敗や低迷を教訓として生かしている。今は業績好調な日本マクドナルドホールディングスも過去には価格戦略でつまずいた。現在は約1000万人の会員客に携帯電話で毎週クーポンを配信するなど、価格と集客効果の関係をより綿密に分析している。

円高生かす国際展開

 好業績企業の多くは安易な多角化に走らず、核となる事業に人材や資金を集中している。経営資源が分散した企業は「選択と集中」が課題になろう。本業強化のためにはM&A(合併・買収)による事業の再編拡大も重要な選択肢になる。

 金融危機と信用収縮に伴いM&Aに必要な資金の調達が難しくなった半面、世界的な株価下落は国際的なM&Aの好機をもたらす。輸出企業を悩ませる円高は、日本企業による海外企業買収では追い風になる。ファストリの柳井正社長も「今なら買収可能な会社が多い」と外国企業買収による事業拡大に意欲を示す。

 米調査会社トムソン・ロイターによれば、日本企業が昨年公表した外国企業の買収・出資額は約676億ドルで一昨年の2.7倍に増えた。今年に入ってからも日本製紙グループ本社がオーストラリア第3位の製紙会社買収を決めた。キリンホールディングスは1000億円超をフィリピンのビール最大手に出資する。

 内需依存の大きい企業が海外でのM&Aに積極的になりつつある。長期的に国内市場は人口減少による縮小が見込まれるため、財務力のある内需型企業は円高を国際展開の加速に生かすべきだ。経営者は不況の後の世界市場もにらみ、国際競争力を高める戦略を実行してほしい。

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