平年より早い桜の便りとともに、日本列島に球児の季節が訪れた。第81回選抜高校野球大会は21日、阪神甲子園球場で開幕する。
ひときわ厳しく、長く感じる冬だった。経済危機は深刻さを極め、各地で大手企業の非正規雇用労働者削減や地場産業の不振といった冷たい風が吹き募る。こんな時だからこそ、勇気と希望を持ち寄って、甲子園から日本全国に明るい春を届けたい。
今大会の「21世紀枠」には3校が選ばれた。
春夏通じて初出場の利府(宮城)は84年の学校創立以来、生徒が地元特産のナシの授粉作業ボランティアを続けている。彦根東(滋賀)は江戸時代の彦根藩校の流れをくみ、文武両道には定評がある。大分上野丘(大分)は明治中期の旧制中学時代に外国人教師が野球を紹介し、戦後間もなく2度、センバツに出場した古参校だ。
この3校に限らず、練習時間や場所の制約を受けながら、地域とのつながりを深め、地域に助けられて活動してきたチームは多い。
選手宣誓のくじを引き当てた今治西(愛媛)の高市廉主将は「周りへの感謝の気持ちを伝えられるような宣誓を」と話す。甲子園でのはつらつプレーが、なによりの恩返しになる。
往年の強豪校の復活にも注目したい。夏に2回全国制覇した習志野(千葉)は33年ぶりにセンバツに戻ってきた。興南(沖縄)は26年ぶり、春夏4回の優勝経験を持つ箕島(和歌山)は18年ぶりに春の甲子園の土を踏む。
少子化が進み、学生スポーツは多様化してきたが、大リーグでの日本人選手の活躍などもあって、野球を志す高校生は依然多い。その中で、出場校の顔ぶれが多彩になったのは、指導者の熱意や地域の応援が脈々と受け継がれ、チーム力が伯仲してきた証拠である。
今大会は1回戦から、注目選手を擁するチーム同士の対戦も多く、球趣を一段と高めそうだ。
舞台となる阪神甲子園球場は全面改修の2期工事が終わり、各地の高校に移植されていたツタの再生も始まった。名物の銀傘(ぎんさん)が内野席全体を覆い、アルプス席や外野席も足元がゆったり改良された。居心地のいいスタンドから、ファンの声援にも一層力が入るに違いない。
開幕直前の20日に阪神なんば線が開業して、近鉄との相互乗り入れで神戸、大阪、奈良が一本の路線で結ばれた。球場へのアクセスがぐっと便利になる。春の行楽の動きが活発になり、観客層の掘り起こしにつながるだろう。
入場行進曲の「キセキ」(GReeeeN)は「うまくいかない日だって 2人で居れば晴れだって!」と歌う。若い力を集めれば時代を変える「キセキ」だって起きそうな気がしてくる。さあ、未来への扉を開こう。
毎日新聞 2009年3月21日 東京朝刊