またしても痛ましい火災となった。群馬県渋川市の「静養ホームたまゆら」で起きた火事で、現場から遺体で見つかった7人の入所者は逃げ遅れて炎に包まれたものとみられている。
総務省消防庁などによると、介護施設などの出火率は一般住宅などと比べて決して高くないというが、体が不自由なお年寄りが入所する施設でいったん火事に見舞われると被害が大きくなりがちだ。今回も、3年前に長崎県大村市のグループホームで7人が死亡した火災と並ぶ犠牲者が出た。
警察、消防は出火原因の究明はもちろん避難誘導や防火施設面、管理面などでミスや問題がなかったか、徹底的に調べて今後の教訓にしなければならない。
一般論で言えば、夜間の当直や介護スタッフを増強したり、スプリンクラーを各室に設置するなど法定基準を上回る対策を講じれば、安全性が高まることは言うまでもない。
だが、コストや要員確保などには限界があり、万全を期すのは至難の業だ。大村市のグループホームの火災のように、オール電化にして火気をなくしていたのに、たばこの火の不始末から出火したとみられるケースもある。
各施設が対策をできる限り強化するのは当然だが、不十分さを認識した上での現実的な取り組みも求められる。いざという場合に応援が得られるように、日ごろから近隣住民や地元消防団と緊密に連絡をとり、円満で良好な関係を築いておくことなども重要だ。施設を開設する際には、資金的な制約はあるとしても、なるべく人里離れた場所を避けたいものでもある。入所者もまた、安全対策を常に心がけ、集団生活する以上は喫煙習慣を改めるといった覚悟も必要ではないか。
全国の出火件数は減少しており、昨年も約5万2000件で、四半世紀前に比べ2、3割減ったが、火災による死者は逆に増加し、97年から11年連続で2000人を超えるなど高止まりの状態にある。昨年は微減して1967人になったものの、住宅火災による死者の6割以上を高齢者が占めており、高齢化に比例するように増加が続いている。とくに目立つのが、病気や体の不自由さから逃げ遅れるケースだ。
同消防庁は出火にいち早く気づかせるため、消防法を改正して住宅用火災警報機の設置を11年6月までに全国で義務化させることにしたり、早期に設置するように呼びかけるなどの対策に努めているが、肝心なのは各自の心構えだ。万一に備えて家族や近隣住民と、火事を知らせる方法や避難経路を打ち合わせておくことも大切だ。
耐火建築が普及し、裸火を使う機会も減ったのに、1日平均5・4人が火事で落命している現状を看過してはならない。身の回りの火の用心を徹底したい。
毎日新聞 2009年3月21日 東京朝刊