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甘い認識…忍び寄る“和製核兵器”の脅威

3月20日18時26分配信 産経新聞


 核開発に転用される恐れのある工作機械を不正に輸出したとして、工作機械メーカー「ホーコス」(広島県福山市)の社員ら4人が警視庁公安部などに逮捕された。機械は輸出先の国から、「核の闇市場」を通じて、北朝鮮やイランなど大量破壊兵器(WMD)開発懸念国に転売される可能性が浮上している。国際的な規制強化で北朝鮮などは「迂回輸出」による調達を積極的に進めており、企業の甘い認識によって、“日本製”の核兵器が日本へ向けられることにもなりかねない…。

 人口約46万人の工業都市・福山。昭和15年に設立されたホーコスは地元では優良企業で知られ、同社の菅田秦介会長(79)は地元の福山商工会議所の会頭=3月13日に引責辞任=も務めていた。会社付近には関連施設が点在し、街中には頭文字の「H」をかたどった看板も目立つ。

 工作機械・環境改善機器・建築設備機器の3部門を持つ同社は、平成18年には経済産業省から「明日の日本を支える元気なモノ作り中小企業300社」にも選ばれていた。

 のどかな地方の工業都市に衝撃が走ったのは昨年7月末にまで遡る。

 警視庁公安部と広島県警が外為法違反容疑で家宅捜索に乗り出したからだ。地元商工関係者は振り返る。

 「技術的なことを重視する会社で、コンプライアンス(法令遵守)を大事にするクリーンなイメージだったのに…」

 押収資料の分析など捜査を進めていた公安部などは3月4日、外為法違反容疑(無許可輸出)で、同社海外営業課主任、美能圭輔(32)▽同社生産管理課係長代理、藤岡征樹(33)▽同社製造2課係長代理、畠山克行(43)▽元同社海外営業課課長代理、青山正彦(51)−の4容疑者を逮捕した。

 逮捕容疑は、「マシニングセンタ」(MC)と呼ばれる工作機械を経産相の許可を得ずに韓国の自動車部品メーカーに6台(16年)、中国の自動車メーカーに10台(18年)の計16台を不正に輸出したというものだった。

 MCは主に自動車のエンジンの部品を製造する際に使用され、コンピューター制御で金属の表面に数マイクロメートル(1000分の1ミリ)単位の誤差で穴を開けることができるシロモノ。ウラン濃縮に使う遠心分離機の部品を加工する際に使用される恐れがあるという。

 容疑事実では16台だが、捜査関係者によると、同社は14年以降に輸出台数が急増。米国や欧州、中国、韓国、東南アジアに約600台のMCを輸出していた。捜索で押収した資料を分析したところ、500台以上が無許可で輸出された疑いもあるという。

 地元の有力企業でもあるホーコスの社員は、なぜ不正輸出に手を染めていったのだろうか。

 そもそも大量破壊兵器など軍事転用される恐れが強い物資の輸出に関しては、実質的にすべての輸出貨物に審査申告を必要とする「キャッチオール」体制が敷かれている。

 輸出貿易管理令では、金属加工精度が6マイクロメートル未満の性能を持つ工作機械を輸出するには、経産相の許可が必要となっており、今回輸出されたMCはこれに該当していた。

 ただ、申請から許可が下りるまでには3〜4週間かかるのが一般的。「正規に申請をすると納期に間に合わなかった。早く売りたかった」

 捜査関係者によれば、逮捕された4人は公安部などの調べに容疑を認めた上で、動機をこう供述したという。

 時間の短縮という安易な理由が不正輸出の発端だったのだ。そのために4人が編み出した手口が、輸出許可がいらない低い性能に偽って申告する方法だった。

 公安部などの調べによれば、4人の役割は次のようなものだ。

 技術畑の畠山容疑者がデータを改竄(かいざん)。藤岡容疑者が通関手続の書類を作成し、青山、美能両容疑者が経産相に申告したというものだった。

 さらに、精度の低いもので同じ形式の工作機械であれば、5台の平均値を申告すれば1台ごとに申告する必要はなく、1回データを改竄すれば不正輸出を繰り返すことができる。

 「1度ついたウソで、ウソを重ねることになってしまったのだろう。結果として取り返しがつかない数の不正輸出に手を染めざるを得なくなった」

 捜査関係者はこう分析する。

 経済産業相の許可を得ずに輸出された機械は追跡調査が困難となるため、輸出先の国からさらに中東や北朝鮮といった国へ流出する危険性をはらむ。北朝鮮などはこの「迂回ルート」を熱心に模索している。近年、警察当局が積極的に摘発に乗り出している背景がここにある。

 中東向けとしては18年に、核兵器製造に転用可能な3次元測定器をマレーシアなどに輸出したとして川崎市の精密機器メーカーの社長らが警視庁に逮捕された。輸出された機器は国際原子力機関(IAEA)がリビアで行った核査察で発見された。

 北朝鮮向けでは、19年にやはりIAEAの核関連施設の査察で、日本製真空ポンプが見つかり、神奈川県警は昨年7月、輸出元となった日本国内の会社社長を書類送検している。

 神奈川県警は今年2月26日にも、核開発に転用可能な磁気測定装置を東南アジア経由で北朝鮮に輸出しようとしたとして、都内の北朝鮮系貿易商社「東興貿易」など数カ所を家宅捜索したばかりだ。

 北朝鮮などは日本をWMD関連資機材の一大拠点と位置づけているとされ、不正輸出の取り締まりは北朝鮮と警察当局とのイタチごっこが続いている。

 「国際的に歩調を合わせる輸出管理の中で、日本が核開発のループホール(抜け穴)として利用されているという危機意識が企業側にも求められている」

 警察幹部はこう指摘する。

 「第三国へは『核の闇市場』を通じて転売される可能性がある」(捜査関係者)。

 核の闇市場。パキスタンの核開発者、カーン博士が編み出した核物質や技術の秘密取引ネットワークで、関連国は30カ国以上にのぼるとされる。パキスタンの核開発では闇市場から物資を調達しており、北朝鮮の核開発にも影響を与えているとの指摘もある。

 そのカーン博士のもとへ1970年代以降、複数の日本企業が特殊磁石や電子顕微鏡など、核開発や研究に必要な物資が大量に輸出されていたことが最近になって判明した。

 こうした部品がパキスタンや北朝鮮の核開発に利用された疑いがあり、唯一の被爆国である日本の企業が核開発に荷担していた可能性が高い。

 輸出許可申請は年間で約1万件にのぼるとされる。現行の制度では製品が輸出規制の対象になるかの判断は一義的には企業に委ねられている。相次ぐ不正輸出には企業の性善説にたった制度自体の限界を示しているともいえる。

 「摘発されている不正輸出事件は氷山の一角とみるべきだ。利益至上主義の安易な姿勢が、日本の安全保障を脅かすことになることを企業はもっと自覚するべきだ」

 警察幹部は目先の利益のために安易に走りがちな企業姿勢に警鐘を鳴らす。

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最終更新:3月20日18時29分

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