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2009-03-19

音楽業界はどうなるんでしょうね - 音楽メディアユーザー実態調査で考える

なかなか興味深い統計結果。日本レコード協会の「音楽メディアユーザー実態調査」。2008年度版の調査結果が3月12日に公開されてる。

概要はこちらでも触れられているけど。

こういうデータをいじくるのは好きなので、せっかくなので自分もちょっと分析することにした。幸いなことにデータは結構ネットであたれるし、これ以外にも相当なものが転がっているので。便利な世の中に感謝だねえ。

概況

CDが売れない」という話はもはや周知事実ミリオンセラーが出なくなったし、明確に数字として出てます。

数量で見ても、金額ベースで見ても、見事なまでの右肩下がり。気持ち良いくらいの右肩下がり。

じゃ世界はどうなのかということで、アメリカデータを見てみる。

実はアメリカも減っている。メチャメチャ減ってる。

日本アメリカCD生産・出荷の数量と金額ベースの推移をまとめたものと、グラフ化したものがこちら。

(表1)日米CD数量推移
日数量米数量日金額米金額
単位百万枚百万枚億円百万$
1998457.2847.05,87911,416
1999423.8938.95,51312,816
2000414.1924.55,23913,215
2001368.6881.94,89612,909
2002328.7803.34,31812,044
2003315.3746.03,88011,233
2004302.3767.03,68611,447
2005301.8705.43,59810,520
2006290.3619.73,4459,373
2007260.3511.13,2727,452
98/0756.9%60.3%55.7%65.3%
(図1)日米CD数量比較(単位:百万枚)

f:id:takerunba:20090318181226p:image

(図2)日米CD金額比較(単位:日・億円、米・百万ドル)

f:id:takerunba:20090318181225p:image

ともに右肩下がり。アメリカと比べたらマシに見えないこともないくらい。

ただ、表1の最下段に注目して欲しい。これは2007年の数値が、1998年の数値に対して何%かを示すものだけども、日本が56.9%・55.7%に対し、アメリカは60.3%・65.3%。日本は45%程度、数量も金額も減っているし、数量よりも1.2%ほど金額の落ち込みが大きい。それに対してアメリカは確かに数量は4割減らしているものの、金額の落ち込みは数量のそれを比較して5%少ない。

1枚あたりの単価を高めたアメリカ、単価も数量も減らした日本

先ほどのデータに登場した数量と金額を使えば、CD1枚あたりの単価が割り出せる。

こちらの資料で示されている、アメリカでのCD1枚あたりの単価と比較してみる。

(表2)日米CD1枚あたりの単価推移(単位:ドル 1ドル=100円で換算)
日本アルバムのみ)日本(全体)アメリカ
199816.2612.8613.48
199916.3013.0113.65
200015.4312.6514.02
200115.7913.2814.64
200215.1013.1414.99
200314.6912.3115.06
200414.3612.2014.92
200513.1111.9214.91
200613.1911.8714.90
98/0681.1%92.3%110.5%
(図3)日米CD1枚あたりの単価比較(単位:ドル 1ドル=100円で換算)

f:id:takerunba:20090319010445p:image

日本1998年に対し、2006年は18.9%・7.7%下落ですか。ふむ。なかなか厳しい感じが伺えますなあ。円での金額だと、1998年が1,626円だったのに対し、2006年は1,319円。2007年はやや持ち直して1,411円ですが、それとて、落ち込んでいることには変わりはないわけで。このあたりの数字を見ても、日本音楽業界CDの売上環境を巡る厳しさがうかがえますねえ。

何が売れていないのか?

ではここからは「音楽メディアユーザー実態調査」を使って具体的に。まずは分野別の購入率・利用率のデータから。

(図4)過去半年間のCDの購入率・利用率

f:id:takerunba:20090319030112p:image

見事な右肩下がり。あんまりテンション上がる話になりそうもない感じ。

2007年から2008年かけて、レンタルCDの利用率が上がっているのが唯一の救いですし、なんか良さげな感じではありますが、

(図5)過去半年間のCDの購入・利用平均枚数

f:id:takerunba:20090319030111p:image

上がっているのはあくまで利用率。2007年から2008年にかけて、利用率は上がっても、利用枚数は減っている。ということは、単純にお金を使わなくなったというだけのこと。

(表3)過去半年間のCDの購入・利用平均枚数
購入CD新品CD中古CDレンCD
20058.456.467.2412.71
20066.725.685.1214.88
20076.234.922.0413.10
20086.215.241.5112.06
05/0873.5%81.1%20.9%94.9%

きっちりと全部減ってます。

このあたりのデータから、次の問題が浮かび上がりますな。

売れないシングル

とにかくシングルが売れない。アルバムは健闘しているものの、シングルの状況が壊滅的。

(表4)過去半年間のシングルCDの購入率・購入数
購入率購入数
全体新品中古全体新品中古
200521.5%18.8%6.7%6.235.534.36
200620.2%18.7%4.4%4.433.585.21
200718.7%17.4%3.1%2.121.740.48
200816.5%15.1%3.8%2.201.870.41
05/0876.7%80.3%56.7%35.3%33.8%9.4%

2006年2007年の間に時空の歪みがあるとしか思えない変化っぷり。急降下。急降下して戻すかと思いきや、2008年も同じ水準。新品でも買わないし、中古ならもっと買わない。

中古CD市場はどうなってしまうの?

そして中古にも2006年2007年の間に何かある。

(表5)過去半年間の中古CDの購入率・購入数
購入率購入数
 全体 アルバムシングル 全体 アルバムシングル
200515.5%13.2%6.7%7.246.194.36
200610.5%9.1%4.4%5.123.575.21
200710.0%8.7%3.1%2.041.610.48
200811.0%9.5%3.8%1.511.150.41
05/0871.0%72.0%56.7%20.9%18.6%9.4%

率は減少傾向ではあるものの、ここ3年は安定している。が、数がとにかくひどい。半年で5枚売れてたものが、いきなり2枚になると。一時的な現象かと思ったら、2008年はさらに減ると。これはなかなかの出来事。シングルに至っては、1年で1枚売れるか売れないか。

世間的には「中古CDが売れているから、新品CDが売れないんだ!」という言説がまかりとおっておりますが、どうやらそんなことはないようですね。新品CDが売れる売れないの話以前に、中古CDが売れてないわけですから。新品CDが売れなくなった分の受け皿になっているとは、到底言えない。

受け皿はレンタル

新品CDが売れていない。中古はもっと売れていない。となると、CDの売上を減らしているのは、レンタルではないか?という推測は一応成り立つわけです。CDレンタルし、それをデータとしてPCに取り込むから、CDが売れないんだと。そういう理屈

(表6)過去半年間のレンタルCDの利用率・利用数
利用率利用数
 全体 アルバムシングル 全体 アルバムシングル
200529.7%27.9%17.1%12.716.8610.73
200630.0%27.5%17.7%14.887.0314.21
200729.8%27.9%15.4%13.106.847.26
200834.3%32.0%16.8%12.067.095.69
05/08115.5%114.7%98.2%94.9%103.4%52.9%

これは言えなくもないという感じ。レンタルはなんとか持っている。シングルは減らしているものの、アルバムで持ちこたえてる印象。表3を見てわかるように、レンタル分野はまだマシ。

……だが、こういう現実もある。

(表7)CDレンタル店数の推移
店舗
19994,116
20003,864
20013,661
20023,572
20033,422
20043,305
20053,225
20063,179
20073,116
20083,051
99/0874.1%

レンタル店数が減っている。ということは、パイを食べる人が減っている。利用数が変わらないということは、パイの大きさは変わっていないはず。ということは、店あたりの分け前は増えていてもおかしくないし、経営的にラクになっていても不思議はないし、店舗数が減る道理はないはずだけども、現実はというと、減り続けている。現実はちっともラクにはなっていない。

新品や中古よりはマシだけど、レンタル市場も縮小傾向にあることは間違いない。となると、音楽市場全体が縮んでいるというだけで、何が悪いとかという話ではないのでは?

レジャーとしての音楽

それを裏付けるデータレジャー白書の中にあった。それをまとめたのがこれ。

(表8)音楽鑑賞の参加率・年間活動回数・年間平均費用の推移(単位:%・回・円)
参加率活動数 費用
200140.6%72.912,700
200240.6%69.913,100
200341.4%65.114,400
200438.5%73.512,000
200536.6%72.113,000
200633.4%74.211,800
200734.4%71.110,700
01/0787.7%97.5%84.3%

比較のため、同じような音楽活動ということで、「音楽会コンサートなど」のデータを載せる。

(表9)音楽会コンサートなどの参加率・年間活動回数・年間平均費用の推移(単位:%・回・円)
参加率活動数 費用
200122.5%4.516,400
200223.6%3.615,800
200321.3%4.115,600
200423.3%3.815,200
200522.3%4.618,100
200622.1%4.616,200
200722.1%4.218,300
01/0798.2%93.3%111.6%

同じ音楽分野のレジャーながら、明暗が分かれた感じ。音楽を聴く回数こそ減っていないものの、音楽を聴く人の数は減っているし、聴く人は、年間の回数は同じながら、かける費用を減らしている。

そしてやっぱりここでも2006年2007年の間で、額を大きく減らしている。2008年データがないので、これだけではわからないが、一体何があるんでしょうね。

音楽界の変化

考えるに、可能性があるのはこのあたり。

YouTube2005年サービス開始)
ニコニコ動画2007年サービス開始)
iTunes Store2005年日本オープン

既存のものではここまで大きな変化が起きるとか考えられないので、新たなに始まったサービスのいずれかの影響が強いのでは。

実際、2008年度の「音楽メディアユーザー実態調査」によると、CD購入のきっかけになったものという設問で、「YouTube」をあげたのが8.1%、「YouTube以外の無料動画配信サイト」も3.7%いた。この層は2005年以前は存在しなかったわけで、影響はかなり大きい。

考えようによっては、これは「CD購入のきっかけになった」という数字なわけで、それ以上の「聴いたが、買わなかった」「きっかけにならなかった」という人たちが存在するってわけですね。

(表10)CD購入動機がYouTubeと答えた人の性・年代別
男性中学生18.8%女性中学生17.4%
男性高校生26.5%女性高校生29.1%
男性大学専門学校32.1%女性大学専門学校22.0%

YouTubeが購入動機になった層を性年代別でみると、学生を中心に2割〜3割いる。

(表11)学生の推定マーケットシェア中学生高校生大学生専門学校生)
200319.4%
200419.3%
200515.8%
200619.0%
200718.3%
200817.9%

音楽メディアユーザー実態調査」での中学生高校生大学生専門学校生の数値を合計してつくったのがこの表。小数点以下の処理ができないため、小数点以下で誤差が発生している可能性があります。ご注意。ま、不正確ではあるが、大まかなところはつかめるはず。

この数値を見る限り、2007年2008年と減少はしているものの、ここで傾向を見出せるほどの動きはない。YouTubeをはじめとする動画サイトによってCD売上が減少するならば、そうしたサイトを利用する層のシェア、即ち学生シェアは低下するはず。なので、そこが減少しないということは、学生に限定されない全体的な市場の縮小が起きていることが原因であり、市場全体が縮小しているからこそ、学生シェアに大きな変化がないと考えるのが自然じゃありませんかね。

結論

なんかしまらないですが、こんな感じで。

おとなり日記