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きょうの社説 2009年3月20日
◎志賀1号機の再稼働 安全のお墨付きを過信せずに
志賀原子力発電所1号機の再稼働準備が月内にも始まる見通しとなったのは、地元にと
っても朗報だ。低迷する地域経済の浮揚と二酸化炭素(CO2)削減に大きな効果があり、税収不足に悩む石川県には「核燃料税」が入ってくる。北電は割高な原油や石炭を大量に買い付ける必要がなくなり、燃料費の削減は電気料金の下げ圧力となる。長い目で見れば、北陸の企業や家庭はあまねく恩恵を受けることにもなろう。ただ、それはあくまで1、2号機がこの先、安全かつ安定的に運転されることが前提で ある。2号機の運転差し止め訴訟の控訴審判決で、新指針の妥当性が認められたとはいえ、それをもって、完全に安全の「お墨付き」を得たと過信してはならない。 北電は一審敗訴の後、能登周辺の活断層を再調査し、活断層の状況を把握するとともに 、1号機についても約二千カ所の耐震補強工事を行った。「最新の知見」を盛り込んだ新指針に照らしても安全性が再確認された意味は大きいが、百%の安全はあり得ない。地震学や地質工学、原子力技術の発展は日進月歩であり、最新の知見に応じて安全性の質を高めていく積極性が求められる。 再稼働に向けて残された課題はまだある。地元との信頼関係を再構築し、より太いきず なにしていく不断の努力である。1号機の臨界事故隠しで、北電の信頼は地に落ちた。このときの北電の対応は、地域の電力供給を担っていく資格が本当にあるのか、疑わしく思えるほど、ずさんだった。富山市の本店から、志賀町の現業部門は遠い存在だったからだろう。 原子力本部と地域共生本部の創設によって、今では本店と現業部門の壁が無くなり、風 通しは随分良くなった。無理な「遠隔操作」をやめたのは英断だったが、それでも、地域に根を張るところまでには至っていないのではないか。 志賀原発の長期停止は、北電にとっても地元にとっても大きなマイナスだった。傷付い た信頼は、北電が再発防止のための安全対策に万全を尽くすと同時に、これまで以上に地域の発展に貢献していくことで回復を図るほかない。
◎AIGが巨額賞与 倫理喪失の反面教師だ
アメリカの企業はしんから腐り始めたのだろうか。そのような疑念さえ抱かされる。米
政府・連邦準備制度理事会(FRB)から千七百億ドル(約十六兆八千億円)の金融支援を受けて倒産を免れた米保険大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)が、経営危機の原因をつくった傘下の金融子会社の幹部に巨額のボーナスを支払ったことである。結論から言えば、戦後一貫してアメリカ化を進めてきた日本はモラル・ハザード(倫理喪失)の「反面教師」とすべきだ。支給された幹部は約四百人であり、六百五十万ドル(約六億四千万円)を受け取った社 員もいると報道されている。議会が猛反発し、オバマ大統領はボーナス支給を「納税者に対する侮辱」とまで言い切り、ガイトナー財務長官に返還させるための法的手段の検討を指示した。 糾弾の高まりを「大衆迎合的な反発」と切り捨てる論評もあり、メディアには賛否両論 があるようだ。当のAIGは公的支援が決まる前の雇用契約であり、優秀な社員をつなぎ止めるためにやむを得ないボーナス支給だったと弁明しているそうだ。 一九三〇年代の大恐慌のとき、失業率は25%まではね上がった。四人に一人が失業し たのである。それでも手当てをもらうために手続きをするくらいなら、もらわないという人たちが少なからずいたといわれる。そのような気概があったから立ち直ることができたとさえ指摘する説がある。 それに比して今はどうか。見えてくるのは病んだ金融超大国アメリカだ。住宅ローンの 所有権を、借り手と直接やりとりする銀行から、金融工学が編み出した証券化という手法で借り手とはまるで無関係の投資家へと次々と移転してリスクを高めてしまったのが今回の危機の発端となったサブプライムローン問題だ。 リスクを他人に引き受けさせる仕組みの下で貸し付け審査が甘くなってしまったのだ。 アメリカの著名な投資家ジョージ・ソロス氏は「典型的なモラル・ハザード」と手厳しいのも理解できる。
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