仕事を分け合い、雇用を維持するワークシェアリングの導入に向けて、政府と日本経団連、連合の政労使3者が23日に合意する見通しとなった。労使は「日本型ワークシェア」を推進する一方、政府は雇用調整助成金を活用したワークシェア導入企業の支援制度を新たに整備。労使の取り組みを後押しする。政労使がワークシェア関連で合意文書をまとめるのは2002年以来7年ぶり。景気悪化が深刻さを増す中、雇用安定化に向けて企業のワークシェア導入が本格化しそうだ。
麻生太郎首相、日本経団連の御手洗冨士夫会長、連合の高木剛会長らは23日午前、首相官邸で「雇用安定・創出の実現に向けた政労使会合」を開き、正式に合意文をまとめる。
合意案は「政労使の3者が雇用安定・創出の実現に向けて一致協力して取り組む」と明記。「日本型ワークシェア」を休業や残業削減、出向などで雇用維持を図る取り組みと位置付けている。職業訓練の推進や雇用保険の失業手当をもらえない人への支援強化も盛り込む。
◆雇用調整金で支援
与党は19日、総額1兆6000億円の緊急雇用対策をまとめ、ワークシェア導入を促す施策を加え麻生首相に提出した。工場の操業停止などで従業員を休業するさいの賃金を支援する雇用調整助成金を活用。残業時間を減らして、非正規を含む従業員の雇用を維持した場合、雇用調整金で一定額を支援する。
これを受けて、景気対策では雇用保険2事業の特別会計から雇用調整助成金を6000億円積み増し、このうちワークシェア支援に400億〜500億円を計上する方針だ。
世界的な景気後退による売り上げ減少を背景に、すでに一部の大手企業はワークシェアの導入に踏み切っている。
日産自動車は今月20日を一斉休業日とし、営業や経理といった事務部門を含め、全社規模の休日とした。三菱電機は2009年度以内という期間限定で、事業所単位に限られていた有給休暇の一斉取得を職場単位でも取れるようにした。
今年1月から国内工場で労働時間を減らし、雇用を維持する富士通の場合、国内工場の約5000人の正社員を対象に副業を容認した。これに伴う賃金減少分を補填(ほてん)するため、例外措置を設けている。
大手企業の就業規則には社員の副業を禁じるケースが多いものの、産業界には一時帰休などの動きが広がりつつある。労働時間の短縮化によって賃金が削減されるため、今後、生活水準を維持する配慮から副業禁止を見直す動きが相次ぐ可能性もありそうだ。
◆緊急避難的な措置
ワークシェアの導入に対し、労組側は「実質的な賃下げだ」(連合の古賀伸明事務局長)と反発。経営側にも過剰な雇用を抱えることで生産性低下への警戒感も根強い。そうした中、舛添要一厚労相が「避けて通れない問題だ」と労使関係者に議論を促した一方、与党も支援制度を用意したことで合意に向けた動きが加速した格好だ。
もっとも、ワークシェアの導入に向けた政府・与党の支援策は「緊急避難的」な措置にとどまっている。
政府は2002年にもワークシェア導入企業に助成金を支給した経緯があるが、当時の導入企業は4件にすぎなかった。今回の不況が日本にワークシェアを浸透させるきっかけになるのか。今後も、労使の動きに熱い視線が注がれる。(石垣良幸)
■ワークシェアリング 従業員1人当たりの労働時間を短縮したり、賃金を減らすなどして仕事を分かち合い、雇用の維持や創出を目指す取り組み。オランダなど欧州で導入が進んでいる。不況時などに労働時間や賃金を減らす「緊急対応型」や、ライフスタイルの変化に合わせて働き方を見直す「多様就業型」などがある。
≪政労使合意案のポイント≫
政府、日本経団連、連合などによる政労使合意案のポイントは次の通り。
▽政労使の三者が雇用安定・創出の実現に向けて、一致協力して取り組むことに合意。
▽労使は緊急の雇用維持に最大限の努力。「日本型ワークシェアリング」を強力に進める。
▽政府は労使の取り組みを援助するため、雇用調整助成金を拡充。
▽大企業の労使は下請け労働者の雇用の維持・確保に最大限の配慮。
▽就職困難者の訓練期間中の生活安定確保。
▽政府は財政出動、政策減税などあらゆる施策を総動員し、重点分野の雇用創出を図る。
【関連記事】
・
不況時だけでなく…ワークシェアで仕事好循環
・
副業容認も影響…「週末起業」再び脚光、セミナー盛況
・
大手メーカーに人件費圧縮広がる 富士通が3%給与カット
・
春闘 「まさに申し訳ない結果」連合会長
・
軒並みベアゼロ回答…経営側にも重い課題