永山則夫元死刑囚(執行)に対する判決で、最高裁が1983年に示した死刑適用の基準。(1)犯罪の性質(2)動機(3)態様(特に殺害方法の執拗=しつよう=性や残虐性)(4)結果の重大性(特に被害者数)(5)遺族の被害感情(6)社会的影響(7)被告の年齢(8)前科(9)犯行後の情状−を総合的に考慮し、刑事責任が極めて重大で、罪刑の均衡や犯罪予防の観点からやむを得ない場合に死刑選択が許されるとした。
(2009年3月19日掲載)
18日の闇サイト事件判決は、殺人被害者1人で複数の被告に死刑を言い渡す異例の結論となった。極刑を求める遺族感情などを重視した、厳罰傾向に沿う判断だが、5月から裁判員制度が導入された後も、この傾向は続くのか。試行が続く法廷や模擬裁判などから考察する。模擬裁判では、遺族感情について裁判官と異なる見解を示した裁判員役もいた。
▼試 行
「振り袖を買うのに何店も見て回りました」
昨年12月、名古屋地裁の検察側証人尋問で、殺害された磯谷利恵さん=当時(31)=の母富美子さん(57)は法廷のスクリーンに映し出される生前の利恵さんの写真について、当時を思い出したのか、時折笑みを浮かべながら説明した。富美子さんは「裁判官に聞いてほしかった」と話す。
裁判員裁判に向け、遺族感情を法廷で強調する検察側の試みは、この事件だけではない。
東京都江東区のマンションで同階の女性を殺害し、遺体を損壊したとして、殺人罪などに問われた星島貴徳被告(34)の公判では、肉片や骨片計200点以上の写真を法廷で見せた。検察側は「処罰感情の厳しさを示す根拠」と指摘する。
▼転 機
「死刑は非常に重いストレス。回避できる事情がどこかに少しでもないか探す」とベテランの刑事裁判官は明かす。
そんな裁判官たちにとって、永山則夫元死刑囚の上告審判決(1983年)で最高裁が示した死刑の適用基準(「永山基準」)のうち、「被害者の数」は“心のよりどころ”だったという。被害者1人で死刑を選択するのは、殺人の前科があり仮釈放中のケースなどに限られてきた。
転機は、最高裁が2006年6月に言い渡した山口県光市の母子殺害事件の上告審判決。この事件でも遺族の処罰感情は峻烈(しゅんれつ)だった。
永山基準で「犯人の年齢」が考慮要素の1つとされ、事件当時未成年の場合、殺人被害者が2人でも無期懲役とする判決の傾向を最高裁は覆し、死刑相当と判断した。
その後、奈良の女児誘拐殺人事件や長崎市長射殺事件で被害者1人の死刑判決が続く。しかし複数の被告に死刑を言い渡した判決は、88年に確定した北九州市の病院長殺害事件以来なかった。
▼影 響
別の裁判官は「裁判員制度の導入を機に、裁判官同士では当たり前の判断基準を見直したり、刑罰の本質を考えるようになった。これも厳罰化に影響しているのではないか」とみている。
東京地裁で昨年7月にあった模擬裁判。被告は飲酒運転による死亡事故で危険運転致死罪に問われたとの想定で、遺族が「こんな人間に命を奪われ悔しい」と訴えると、直後の休憩中、裁判員役の6人から「自分が被害者なら同じ気持ち」といった感想が漏れた。
ところが、評議になると「感情に流されてはいけない」「加害者の人生も考えた」などの意見が出た。
別の模擬裁判でも「天涯孤独な被害者だったら遺族感情は関係なく、不公平ではないか」「報道を見て死刑だと思う事件はいくつもあるが、裁判で被告の事情が示され、単純じゃないことが分かった」などと話す裁判員役は多く、裁判官だけの裁判と違う判断になる可能性がある。
一方、裁判官の中には「実際の法廷で遺族の存在は大きく、模擬裁判は参考にならない」という意見も。また「現実感を持てない」(最高裁刑事局)という理由から、死刑の適否を論議した模擬裁判はなかったため、裁判員がどう考えるかは予断を許さない。
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