2006年 08月 23日
明治大学名誉教授・入江隆則氏 ■「中国の野望」看破した著者に共鳴 ≪いずれ東アジアの軍事覇権≫ 在米の評論家・伊藤貫氏の著書「中国の『核』が世界を制す」(PHP研究所)を読んだ。本書を読んで感動したある企業人が、2000人の日本人にこの本を配布してほしいと申し出られたそうで、たまたま私も贈呈を受けて読んだのである。その結果、私も深く感銘を受け、本書の主張に共鳴した。 本書は題名から明らかのように、近未来の中国に関する本である。中国に関してはすでに山のような本があり、その将来はいろいろな予測がなされている。現在中国国内で年間数万件の暴動が起きている事実からみて、共産党一党独裁体制は遠からず崩壊するという希望的観測もある。 しかし、伊藤氏はそういう見方をとらない。人民解放軍は、天安門事件のときと同様に今後も暴動鎮圧に成功し、高率の経済成長と毎年2桁台の軍事予算の増額を続けて、2025年ごろには、アメリカの覇権をアジア地域から駆逐して、東アジアの軍事覇権を握る力を持つだろうと予測している。 ≪帝政ドイツ台頭との共通点≫ 中国がなぜそんな野望を抱くかといえば、それは中国人の歴史的経験からくると伊藤氏は言う。中国は紀元前3世紀から19世紀半ばまで断続して1600年間、アジア最大の覇権国だったし、7世紀から19世紀半ばまでの中国経済は世界最大の規模だった。 にもかかわらず、19世紀のアヘン戦争に敗北して以後の中国は、日本を含む列強によって侵食され、苛められ続けてきた。してみれば、中国人が「もう1度昔の栄光を取り戻して、アジアと世界で覇権を握りたい」と考えるのは自然な感情である。 その中国人の野望は、清朝最盛期の中華勢力圏を回復し、漢民族にとって伝統的な中国を宗主国とする「華夷秩序」を再構築するまでやむことはないというのも妥当な観察である。もちろん、そのなかには日本の中国への屈服が含まれている。 本書の2つ目の読みどころは現在の台頭する中国を、19世紀末のビスマルク時代の帝政ドイツの台頭と比較している部分である。両者とも強大な大陸国家であって、同時に強大な海洋国家を目指している共通点がある。 当時のドイツ人は17世紀の30年戦争以後の200年間にわたって、「文化的にも経済的にも遅れた田舎者」だと見なされていた。そのため、ドイツ人は現在の中国人と同様に、強烈なナショナリズムと怨念(おんねん)を抱いて軍拡路線に走っていた。イギリスはその危険に気づいてはいたが、フランスとロシアに対する過度の依存心のために、勃興(ぼっこう)するドイツへの対処を誤ってしまった。 このイギリスの失敗が、アメリカが中国の覇権主義を抑えてくれるだろうと期待して、過度にアメリカに依存している現在の日本の姿に対比されている。しかし、アメリカの「核の傘」は無効であって、アメリカは自国民を中国からの核攻撃に曝(さら)してまで、日本を中国から守らないという指摘には、よく耳を傾ける必要があろう。 ≪有名無実な集団的自衛権≫ 3つ目の読みどころは、中国政府のスパイ機関とアメリカの民主党には、根深い癒着関係があるとされている部分である。民主党が昔から概して中国に一方的に肩入れをして日本を敵視してきたのは、戦前の日米激突に至る歴史を見ても明らかだが、この嘆かわしい癒着は今日も変わっていない、と伊藤氏は見る。 「ニューヨーク・タイムズ」や「ボストン・グローブ」、「タイム」などが目を疑うような親中反日記事を載せるのは、しばしば見られるところだ。本書を読むと民主党系の学者や政治家の、米中両国が協力して日本を抑えておくべきだとする「米中両覇権」の主張が、中国の諜報(ちょうほう)機関の意をくんでなされている実態がよく分かる。 さて、本書のもっとも見事な点は、日本が独自の核抑止力を持たなければ、仮に日本が集団的自衛権を行使しようと決心しても、その決心は有名無実になるという主張である。 これは今まで日本で十分に論議されてこなかった問題だが、中国や北朝鮮のような核保有国に対し、アメリカとの間で集団的自衛権を発動するためには、まず自前の核抑止力が必要だとの議論は説得力があると思う。 とすれば日本は、アメリカとの同盟関係を重視して、それを実効あるものにするためにも、自前の核抑止力が必要だという結論になるだろう。日本人が今後50年、100年にわたって自由と独立を維持しようとすれば、避けては通れない問題である。 Tags:支那・軍事力
by sakura4987 | 2006-08-23 15:28 | ■自衛隊・軍隊・防衛問題
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