＊ 写真はニューヨークでのイラク反戦デモ。タイムズスクエア近くの米軍徴募センターにて。警官隊が介入、２０人の身柄が拘束された。反戦運動のアメリカ人が大量に拘束されることは今や何も珍しくない。「アメリカ愛国者法」によるものである。
日本の自衛隊を巡る政策については、必ず国会の与野党の対立軸の一つに憲法９条の存在がある。非武装中立、平和主義を明記した条文である。世界的にも国家の基本法にて、こうして軍隊を持たず、交戦権を否認する国は非常に珍しい。世界の大国の中では日本だけと言って良い。コスタリカに同様の規定があるが、日本とは比較にならないほど小さい国である。
「憲法９条を守ろう！」
は左派政党の常套句であるが、私はこの言葉に空疎な響きを学生時代からずっと感じてきた。社民党（旧社会党）のように政権に入っているかいないかで言うことがころころ変わる究極のご都合主義は論外として、そうでない立場の人たちも「憲法原理主義者」と揶揄されるに相応しい発想の硬直化を抱えていたと私は思う。
「じゃ、多数決で憲法が改正されたらどうすんの？」
ということになると考えていたからである。
「憲法を愛する」のは結構だが、紙にインクで書かれただけの基本法は法華経でもコーランでも新旧両訳聖書でもない。聖典ではないのだから、「憲法を愛する」がゆえに何をどの様に支持あるいは不支持するのかと言うことに立場を論理的に繋げていく事を忘れてはいけないはずである。そういう意味では、日教組にも日本カトリック正義と平和協議会にも日本共産党にも市民の意見３０の会にも大きな問題があると私は思う。（ちなみに私は「日本国軍」の創設には少なくも現段階では反対。）
例えば、日本の憲法が大々的に改正されて、９条は廃棄。「日本国軍」を合法的に保有できたとして考える。今日の国際法の規範を踏みつぶすことはできないのだから、その軍事行動に一定の制約があることはいうまでもない。そういう「日本国軍」があったとして、今のイラク戦争に参戦し、米英軍とともに装甲車、マシンガンやバズーカ砲を並べて激しい戦闘行為に従事することが許されるのだろうか？
当初、アメリカ以外の世界が（イギリスのブレアでさえ開戦そのものに積極的ではなかった）イラクへの攻撃開始に大反対していた中、 唯一絶対の間違いない「大義」であった大量破壊兵器は存在しないとアメリカ政府自ら認めた。もはやそれらを探してさえもいない。９・１１同時多発テロを引き起こした国際テロ組織、ビン・ラディンの「アル・カイダ」とイラク・フセイン政権との共闘関係も全然なかったことが確定している。理由が完全になくなったのだから普通は当然、すぐに戦争を中止、
「申し訳ございませんでした。」
と謝罪し、補償を開始するのが「ならず者」ではない人間が採るはずの立場である。
だが、アメリカ合衆国第４３代大統領（になれるはずがなく、本来なっていないはずの）ブッシュJr.は、週末に恒例として流されている陳腐なラジオ演説で、
「我々の行動があったからこそ、自由がイラクに根付きアメリカ国民はより安全になった。」
と威風堂々いってのける。アメリカは「より安全に」など全くなっていない（クリントン政権時より安全になったとでもいうのだろうか？）と思うが、その点は置いて置くにしても、ブッシュJr.が言いたいことはつまり、
「アメリカが旧フセイン政権を武力掃討したことは、その理由や過程がどうであれとにかく正しかったのだ。」
ということである。そうしたあられもない開き直りに転じる以外、「大義崩壊」以降のブッシュJr.には言葉がもう残っていないのである。これは１９日、開戦から２年が経過したイラク戦争についての節目に言明したラジオ演説である。今後ともブッシュJr.は、「自由の拡大によるイラク民主化」をばかの一つ覚えで戦争継続の理由にするしかない。まことにまことに世界のアメリカ様は崇高で、気高く、ありがたい犠牲的ご奉仕をしてくださっている偉大な存在であるようだ。
もはや開戦前に口にしていた説明は完全に放り投げた。自身の政策決定を勝手に自分本位に正当化し、「先祖返り」的開き直りに舵を切っているのである。
これがまともな頭を持った人間のすることだろうか？？？そして、この様なばか男の大嘘に、いくら何でも唯々諾々とただ黙って反論もせずに連行されていくことがそれほど「賢明」であり、「国益」にかなったことなのだろうか？当のアメリカ人でさえ、この戦争はあまりに出鱈目だったと気がつき、戦争の支持者が３９％にまで落ち込んでいる（まだそれだけいることはなお驚きだが・・・）のである。あの傲慢で、自己中心的で、一時的には熱狂してブッシュJr.を支持した愚か者のアメリカ人でさえ考えを変え始めているのである。なぜ、日本だけが何も言わずについていく？
例え日本に憲法上の制約がなく、堂々たる強大な「日本国軍」があったとしても、それを迅速にイラクに送って「参戦」できる法的諸条件が整っていたとしても、それでもなお参戦してはならないものだろう。フランスやドイツは開戦時にそういう立場をとったし、スペイン、オランダ、イタリアを初め多くの諸国がすでに撤退したか撤退を始めている。「日本国軍」があろうがなかろうが、憲法９条があろうがなかろうが、イラク戦争は間違った戦争であり、参戦は間違いである。
極端な話（本当に飛躍した例えだが・・・）、ここまで何から何までアメリカに依存しなければならないというならば、もう、米軍ではなく、フランス軍、ドイツ軍、オーストラリア軍、ベトナム軍などに金を払って、米軍には出ていってもらってその代わりに駐留してもらった方がよほどましなのではないか？フランスが外人部隊を編成しているように、日本の税金で外国人を訓練し、日本のために防衛業務についてもらうという雇用兵を作るという選択もある。「アメリカ完全依存状態」は少なくとも解消できる可能性がある。ことある毎に日本再武装派、憲法改正派、軍隊の保有を主張する人たちは「平和ボケ」という言葉を使うのであるが、連中の方こそよほど「アメリカボケ」しているのである。国防、金融、環境政策、ビーフの輸入に至るまで、何から何までアメリカを無前提に中心と考えていかねばならない理由はどこにもない。それが「現実的」で、「最も国益にかなった」政策であるという立証もまるでない。
私が豊かであることより重要だと考える平和とは、つまり、戦争がないこと。内戦がないこと。テロの標的にならないこと。治安が確保されていること。拳銃がそこら中で発砲されたりしないこと。そういう意味では日本は十分に今、「平和」である。未だ改良の余地は大きく残っているが、世界的に見れば十分に平和な「良い社会」である。アメリカに倣って猛烈な勢いで国造り、国の舵取りを続けるということは、これらの「平和」を失うことを意味するものである。
アメリカとは国家的に「戦闘的な国」である。何となればあのイラクでの戦闘で撮影した殺戮ビデオを、娯楽映像作品として楽しんでいるのである。兵士にも、国民にも、「偽装広告」で出鱈目三昧を並べて全てにおいて何の迷いもなく大きなうそをつく政府が動かしている国である。
私がかつて憧れ、移住してそこで生きようかとさえ考えるほど好きだったアメリカはもうなくなった。木っ端微塵になくなったのである。あの大統領が、あの副大統領が、あの国防長官が、あの国務長官、あの司法長官が統治している国である。「今のアメリカについていく事」は何よりも危険な事である。それこそいつも頭の錆び付いたお爺さん評論家たちや居丈高な若僧がいうように、
「日本人としての誇りを持て！」
とはこういう文脈での態度の表し方にこそ見いだされるものだ。
