わが首相は依然として「景気対策」という言葉を使い続けている。それが自分の最優先課題であり、首相であり続ける理由であるという。危機感があまりにも欠如している。この人は、世界そして日本で起こっていることを理解していない。いまだに米国の火事が飛び火したくらいに考えているのであろう。今必要なのは単なる景気対策ではなく、もっと長期的な視点を持つ経済政策である。
トヨタを始め、国際競争力のあった製造業が軒並み巨額な赤字決算を予想している。これは、一時的な暴風雨の結果でしばらく我慢すればまたすぐに巨額な黒字を計上するのだろうか。そういう楽観的な見通しが厳しいところに現在のわが国の苦境がある。
国際的な製造業が高収益を実現できた秘密は、円安と米国市場のバブルである。この二つが反転した今、過去の状況への回帰を予想できない。製造現場は80円の円高にも耐えられると豪語していたが、それは需要が安定しているときの話である。需要が激減すれば利益を搾り出すことは難しい。
もちろん海外資産の減価に円高が加わったことによる特損は一時的であろうが、トヨタ一社だけでも能力対比200万台くらい不足する需要減は容易に回復できないだろう。固定費の重みが負担となり、能力と雇用の大幅削減が起こっており、負のスパイラルが深まることは必至である。
選挙により国民の信任を受け、「グリーンニューディール」という新機軸を旗印にすばやい「経済政策」を進めるオバマ政権の動きとはあまりにも対照的である。過去、バブル崩壊からの脱却に失敗した日本は、ここでさらに世界的に影響をもたらす失敗を繰り返すのか。(龍)