北朝鮮への「帰還事業」で渡航し、脱北して01年に日本に帰国した日本人妻(67)=東京都板橋区=が、自分の親族と偽って中国人の男女を不法に入国させた疑いが強まったとして、大阪府警は8日、この日本人妻と中国人4人の計5人について出入国管理法違反(不法入国など)容疑で逮捕した。府警は、背後に中国人ブローカーら「脱北ビジネス」を請け負う組織があるとみて調べる。
府警によると、脱北者の家族を装った不法入国の疑いでの摘発は全国で初めて。日本は国外からの難民や亡命者については、審査が厳しく受け入れ数が少ないとされるが、脱北した日本国籍がある人物とその家族は邦人保護の観点で受け入れている。身元を照会できる北朝鮮側の資料の入手は難しく、審査は口頭での確認が中心となっており、中国人らがこうした死角を利用したと府警はみている。
府警や関係者によると、逮捕された日本人妻は、斉藤博子容疑者。在日朝鮮人の夫(死亡)と日本で結婚し、1961年に夫と当時1歳の長女と帰還事業で北朝鮮に入国。北朝鮮でさらに5人の子どもを産んだという。
斉藤容疑者は00年ごろ、中国に脱北。01年8月、脱北の際に支援を受けた中国人ブローカーの指示で、長女になりすました中国人の女とともに日本に帰国した。さらに06年7月までに、次男、めい、長女の夫を北朝鮮から呼び寄せたと偽って中国人男女の不法入国を助けた疑いが持たれている。
不法入国したとされる中国人男女の本名や年齢は不詳だが、その後東京や千葉、埼玉で日本人妻とは別々に暮らしている。斉藤容疑者の実際の長女とめいは北朝鮮ですでに死亡。次男は現在も北朝鮮にいるという。
斉藤容疑者が昨年末、自ら不法入国にかかわったことを府警に告白し、事件が発覚した。府警の任意の調べに、「中国人ブローカーの指示で不法入国にかかわった。断れなかった」と供述したという。