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きょうの社説 2009年3月19日
◎志賀原発訴訟 地裁判決の取り消しは必然
北陸電力志賀原子力発電所2号機の運転差し止めを命じた金沢地裁判決が、名古屋高裁
金沢支部の控訴審判決で取り消された。国の耐震指針をクリアしている施設を、観念的に危険と見なした一審判決には、やはり無理があった。裁判官が裁判の法(のり)を超えることなく、提出された証拠のみで判断すれば、判決の取り消しは必然だったといえよう。北陸電力は控訴審で、国が改定した耐震設計審査指針(新指針)に照らしても志賀原発 2号機の安全性は保たれていると主張した。これに対し住民側は、地震の想定や調査手法は不十分とし、「新指針は電力業界が都合よく策定した。再評価しても安全性の立証にはならない」と反論した。 新指針は、国の原子力安全委員会が阪神大震災などを受けて、二〇〇六年九月に改定し たものである。電力各社は、この新指針に従って原発の耐震安全評価を進めているのであり、耐震基準を満たした原発施設であっても事故発生の恐れがあると訴えるなら、新指針の安全性を否定しうる客観的で、説得力ある論証の積み重ねが必要だった。 想定以上の強い地震が起きるという前提に立ち、お手盛りの指針は信用できないとした 住民側の主張は、具体性と客観性を欠いていると判断された。 渡辺裁判長は、新指針は最新の研究成果を反映しているとした上で、「新指針に適合し ている2号機は安全」と新指針の妥当性を認定した。すこぶる常識的で、合理的な判断である。あらためて一審判決の異常さを思わずにはいられない。 判決を受けて、北電は新指針に基づく1号機の耐震評価を国に提出した。一審判決後に 国が改定した新指針の妥当性がこの裁判で全面的に認められた意義は大きい。北電にしてみれば、1号機の再稼働に向けて、ノドに刺さった小骨がようやく取れたという思いではないか。 ただ、原発の再稼働は安全性の確保が大前提であり、特に耐震性は安全性に直結する。 北電は、今回の判決に安んじることなく、新指針の趣旨をくみ取り、耐震性向上への一層の努力が求められる。
◎春闘一斉回答 展望示さぬ賃下げは問題
春闘相場を先導する自動車や電機など大手製造業の集中回答は、賃上げで一斉に「ゼロ
回答」が提示され、定期昇給(定昇)の一時凍結も相次ぐなど、労組側にとっては極めて厳しい結果となった。世界同時不況に伴う急激な業績悪化で、二〇〇九年三月期決算は多くの企業で大幅赤字が見込まれるなか、ある程度の賃金抑制はやむを得ない面がある。だが、この流れが産業界全体に波及すれば、消費が一段と冷え込み、政府や自治体がせ っかく景気対策を打ち出しても、その効果に水を差すことになる。最も恐れるのは全体の給与水準が下がり、物価下落の環境が整いかねないことである。連合などが掲げる「賃上げこそ最大の景気対策」という主張は一理あり、余力のある企業はできる限り、賃金改善に反映させてほしい。 いま経営側に求められるのは、たとえ賃金抑制に踏み切るとしても、その難局を乗り切 った後の企業の展望を明確に示すことであろう。先行きが見えないという悲観的な理由だけで経営側がやみくもに賃金カットに走れば、従業員の士気も下がるばかりである。春闘は労使が対立の溝を深めるよりも、危機感や業績回復の展望を共有する場にしたい。 春闘は例年、電機、自動車大手などが加盟する金属労協が相場を形成してきた。だが、 これらの業種は輸出の不振などで総崩れの様相を呈している。今回ばかりは労組が期待してきた相場の底上げ役を委ねるには無理があろう。 連合は一斉回答の前に、先行的に回答を得た労組の結果を公表する異例の戦術に出た。 好調業種にリード役を担わせる狙いだが、それによると、食品や流通など内需型の企業では、ベースアップを含めた満額回答も相次いでいる。 ワークシェアリング導入や非正規の雇用確保など、賃金改善より雇用を優先するなら、 それも一つの考え方である。急速な景気悪化で、経営環境を立て直そうとする企業の対応はさまざまで、横並びの交渉は通じにくくなっている。労使が痛みを分かち、反転攻勢へ知恵を出し合うときである。
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