ふるさとは不思議人間をして語らしむ

■阿蘇の山奥で修業を続けるプロ忍者がいる

火遁の術見よ! 結婚? 頭にござらん。 熊本・西原村 山田邦博さん

火遁の術見よ!  阿蘇外輪山の西にある熊本県西原村。その山奥に居を構え、修業の日々を送る忍者がいる。山田邦博さん(31)。山道を駆け、木に登って肉体を鍛え上げ、大自然の空気を吸っては「気」を養う。

 左手に刀を握り、秘伝の液体を口に含む。その瞬間、目の前にオレンジ色の火の玉がさく裂した。これぞ、敵がひるんだすきに身を隠す「火遁(かとん)の術」。山田さんの得意技だ。老人から若者に一瞬で姿を変える「早変わりの術」も度肝を抜く。現在、水上を走り抜ける「水雲」と、地中に消える「土遁の術」を研究中だ。

火遁の術見よ!  群雄割拠の乱世で暗躍した忍者は「影」の存在だった。現代の忍者、山田さんはステージでスポットライトを浴びる。九州各地のショーに出演して人気を集めている。

 熊本市出身。サッカー選手だった高校時代、バイク事故で左足の靱帯(じんたい)を切断。落胆した山田さんを励まそうと、両親が内証で申し込んだ芸能オーディションに合格。高校卒業後、タレント活動を始め、役者として就職した栃木県の「日光江戸村」で忍者になった。再び靱帯を痛めることへの不安と戦いながら、技を磨いてきた。

 独立して、3年前に西原村に移住した。ショーの出演で生計を立てているが楽ではない。それでも「観客に喜んでもらえるだけで十分」という。「結婚? 考えていない。修業が忙しい」。忍者歴11年。「忍びの道」は遠く険しい。

【写真説明上】火遁の術見よ!

【写真説明下】熊本・西原村 山田邦博さん

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