ふるさとは珍動物をして語らしむ

■世界希少種でも食われます

救出した英国船からのお礼 鹿児島・種子島のインギー鶏 島民挙げ代々世話

花峰小学校の子どもたちの手で大切に飼われているインギー鶏。尾羽がないのが外見上の特徴だ  干支(えと)の主役はイノシシだが、魅力あるトリは九州に「色とりどり」いる。日本三大地鶏の一つ、薩摩地鶏(ぢどり)(鹿児島)、祭りの飾りに尾羽を使う久連子(くれこ)鶏(熊本)。そして鹿児島県・種子島のインギー鶏も、心温まる物語を背負って今日も跳び回る世間遺産だ。

 1894(明治27)年、暴風雨で現在の南種子町に英国帆船ドラメルタン号が漂着した。村人は乗組員を救出。船の修理が終わるまで家に泊めて世話した。島を去るとき、乗組員は感謝の思いを込め、船に積んでいた食糧のニワトリ11羽を贈った。この鳥は「インギー(島の方言でイギリス)鶏」と呼ばれ、大切に育てられている。

 ド号の漂着地にほど近い、同町の花峰小学校(内間安明校長、18人)。専用の飼育小屋には今、七羽のインギー鶏がいる。「当番を決めて、お盆も正月も交代で世話してます」と4年生の篠山愛咲美さん(10)。寺内真帆さん(10)も「インギーは代々受け継がれてきたから責任重大」。校内にはド号の壁画もあり、この交流をテーマにした文集や絵本も出している。

インギー丼 インギーの刺身 この値段の差が舶来種の誇り?  インギー鶏は、学術的にも貴重。尾骨はあるが尾羽がなく、本国の英国をはじめ世界でも類例のない品種という。町は天然記念物に指定する。

 町内の食堂「美の吉」へ。いつでもインギー鶏料理が食べられる店だ。焼き鳥、陶板焼きなどメニューは多彩。インギー丼と鶏刺しに挑んだが、歯応えのある地鶏の印象が一変した。弾力はあるものの、軟らかくこくがあるのだ。「インギーを食べたら、もう普通の鶏に戻れません。大阪にいる三歳の孫も、帰省のたび喜んで食べてます」。店の陶山道子さん(66)が笑顔で語る。

 こんな美味なら全国でブレイクと思いきや、「需要に供給が追いつかず、県外ではなかなか食卓に上りません」と同町農林水産課の三山大作さん(24)。飼育期間が6カ月とブロイラーの3倍も長く、高いコストが価格に跳ね返るため飼育者が増えないという。現在は年間約2000羽を出荷するが「目標はこの倍。ぜひインギーを全国区にしたい」。それが、この鶏をくれた英国人への恩返しにもなるはずだ。

【写真説明上】花峰小学校の子どもたちの手で大切に飼われているインギー鶏。尾羽がないのが外見上の特徴だ

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