ふるさとは珍動物をして語らしむ

■干支の主役でも競られます

全国でも2カ所 冬が旬、霜降りも 宮崎・西都市 「猪競り市場」

おりに入れられたイノシシを前に、競り人の声が市場の中に響き渡る  「メス60キロ。はい2万円から!」

 マイクを握った「競り人」が畳み掛けるように、だみ声を飛ばす。焦げ茶髪を逆立てたイノシシが鉄製の檻(おり)の中で暴れる。「1000円、3000円、おっと3万が来た…」。Uの字に取り囲んだ約50人の食肉業者たちが人さし指を立てて買値を示す。「4万3000! ありますか、ありますか! はいよ、4万3000円で決まり」

競り落とされトラックに乗せられるイノシシは どこか悲しげ  宮崎県西都市の「猪(いのしし)競り市場」。生きたイノシシが競りで売買される光景は、全国でも熊本県多良木町とここでしかお目にかかれない。毎月1回だが、肉に脂が乗る冬場(11-2月)は月2回の開催。取材に訪れた昨年11月16日は19頭が競りにかけられていた。

 といっても、野生のイノシシでなく、飼育したイノシシに限られる。野生のイノシシは春先しか食べ物がないため、肉付きが悪く、硬くて臭い。飼育は肉が軟らかくてうまい。中には「霜降り」ができる上質も育つという。

 鍋、塩焼き…。地元ではイノシシの肉が普通に食卓に並ぶ。国の重要無形民俗文化財に指定されている銀鏡(しろみ)神楽(西都市)では、イノシシの生首が奉納されたり、猟の様子を表現した舞が随所に登場する。「西都は山深い土地でイノシシも多かった。昔からイノシシが生活に密着していた証拠」と高見乾司・九州民俗仮面美術館長(58)。

 競り市場は「効率的に売買したい」という飼育農家と仲買人の双方からの要望で1983年から始まった。しかし、飼育農家の高齢化や牛、豚に比べた割高感が敬遠されるなどして取り扱いは発足当初(約1500頭)の四分の一程度まで減っている。

 「(今年の)干支(えと)なので猪肉のブームが起きてほしい」。猪競り市場を運営する尾崎昌樹・宮崎県猪事業組合長(68)は「亥(い)年」に期待している。

【写真説明上】おりに入れられたイノシシを前に、競り人の声が市場の中に響き渡る

【写真説明下】競り落とされトラックに乗せられるイノシシはどこか悲しげ

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