若者を"食い物"にしているのは企業? メディア? 論壇?(前編)
ワーキングプア、ニート、フリーター......こんなキーワードとともに、2000年代以降、社会状況を背景に、盛んに論じられるようになった若者論。いわく「若者は劣化している」らしい。そこで、若者論の現状を探るべく、巷に溢れる若者論を「俗流」と一蹴し、一部から喝采と罵声を浴びた後藤和智と、自己啓発やケータイ小説にハマる若者を詳細にルポルタージュし、同じく一部から喝采と罵声を浴びた速水健朗の両氏に対論してもらった。
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「世界最古の紙・パピルスに最初に書かれた文章は『最近の若者は......』である」なんてジョークがあるように、古今東西、世の大人たちは若者のあり方を嘆きがちだ。
こと国内メディアにおいては、秋葉原通り魔事件やニート・ひきこもり、学力低下など、若者にまつわる問題が噴出したここ数年、社会学者や精神科医、評論家など、各界の識者によって「若者が変質・劣化した」と語られる機会は多い。
しかし、『おまえが若者を語るな!』(角川oneテーマ21)の著者・後藤和智によると、若者論の大半は、学術的検証に立脚しない単なる印象論。「俗流」に過ぎないという。
では、なぜ若者はそこまで白眼視され、俗流若者論が跋扈してしまうのだろうか?
──後藤さんは『おまえが若者を語るな!』で、本誌連載陣でもある宮台真司さんや宇野常寛さんの語る若者論を「俗流」と指摘していますよね。
後藤 だから、私は「サイゾー」の読者的には最悪のゴキブリ野郎ですよね、きっと(笑)。
速水 宮台信者だったことは?
後藤 大学2年までは「ミニミニ宮台君」でした(苦笑)。ただ『犯罪統計入門』(日本評論社)を読んだとき、検挙率低下の原因について、宮台さんは「地域のコミュニティが失われたから」と言うけど、実際は警察の方針が変更しただけで、重大犯罪の検挙率に変化はないことを知ってしまったんです。
速水 批判はファンゆえの反動なんだ(笑)。
後藤 いや、反動ではなく、「あれが間違いなら、ほかにも変なところがあるかも」と思ったんです。実際、著作の8割くらいを読み返したら、ブルセラやオウムについて語っていた90年代半ば、宮台さんは若者「擁護」派だったのに、98年以降、なぜか「人格の底が抜けている」「脱社会的だ」と若者批判を始めた。しかも、検挙率の話同様、その批判を裏付けるエビデンス(証拠)がないことが多かったんです。
速水 『おまえが~』の宮台転向を分析する部分は面白かったんだけど、一方で、宮台さんは、メディアで何を言っても政策に結びつかなければ意味がないことに気づいて、戦略的に論を変えたんだとも思う。正論もスルーされれば意味がないし、若者論批判本を書いても、若者批判側の本がその何十倍も売れるんじゃ焼け石に水。同じく、人気論客をまとめて叩いて注目を集める後藤さんの本も「企画力が高いなぁ」とは思う一方、「2ちゃんねらーは喜ぶかもしれないけど、世間に届くかな?」という疑問があります。
後藤 企画やウケ狙いで書いたわけではないですよ。純粋に、彼らの論は統計的な根拠や実証性を持たないのに、若者を語る上でのスタンダードになりつつあると思うから批判するんです。
速水 あと、批評家の東浩紀さんへの批判についても「どうだろう?」という部分が多い気がします。特に「ギートステイト」(東浩紀、桜坂洋を中心とした、2045年の日本を予測するプロジェクト)については、あれはSFだから、根拠を求めてしまうのは少しおかしい。それに、批評家が、スタンダードになろうとか、政策を左右したりしようと思っては......。
後藤 いないかもしれない。ただ、人文系の論壇で彼らはウケるし、それを見たメディアが「これが若者の実態だ」と紹介して、変に波及することは多い。秋葉原通り魔事件のとき、東さんが多くのメディアに呼ばれたように。そういった若者論が「若者は大人にはわからない」という世代間の断絶を正当化する恐れはあります。
●無戦略・無計画に売れっ論客を狙い撃ち?
──なぜ若者論は波及しやすいんですか?
速水 商品価値があるからですよ。世代が違えば生き方や考え方が違って当然なんだけど、その違いを「劣化・退化」と言ってくれれば、自分が肯定される。誰もが自分が優秀だと思いたい。あと、市場の要請もある。「若者が消費しなくなった」みたいなのも、そう。
後藤 ただ、それがマーケッターの内部資料として参照されるだけならまだしも、社会論に接近し過ぎです。若者の消費性向と「大きな物語の崩壊」「郊外化」みたいな言葉が安易に結びつけられている。そもそも若者が消費しないと、なぜマズいんですか?
速水 円高で輸出もダメだし、問題かも。
後藤 それはわかりますが、なぜ若者だけが叩かれるのか。車離れとか、旅行離れとかさんざん言われていますけど、実際には景気や賃金の問題でもあるんだから、与党の労働政策や、財務省、日銀も批判されるべきですよ。
速水 おっ、リフレ派ですね(笑)。あの報道を若者批判と捉えるのは後藤さんらしい。ただ、若者が消費しなくなったこと自体は結構正しい。新車が売れないのは事実ですし。当然、軽自動車や中古車が結構売れていることを指摘する必要はありますが。
後藤 でも、打開策を講じないで「若者が大変だ!」と騒ぐだけのメディアは考えものです。
速水 商品価値に加えて「面白い」というのも、みんなが若者論が好きな理由なんでしょうね。
後藤 その気持ちはわかります。宮台さんがウケたのも、90年代、若者を「面白く」論じたのが彼くらいだったからだし。
速水 宮台さんは社会学者なのに、アカデミズムの世界の言葉を使わず、世間に届くように話してくれている、ともとらえられる。逆に「社会システム理論によると......」とか言い始めたら「ごまかしてんだろ」とすら思えちゃう(笑)。
後藤 それがウケたから「社会学者=面白いことを言う人」と見られるようになったんでしょうね。
(後編につづく/構成=成松哲/「サイゾー」3月号より)
●速水健朗(はやみず・けんろう)
1973年生まれ。ライター・編集者。コンピュータ雑誌の編集を経てフリーに。音楽、芸能、広告、コンピュータなど幅広い分野で執筆活動を行っている。著書に『ケータイ小説的』(原書房)、『タイアップの歌謡史』(洋泉社新書y)、『ブログ・オン・ビジネス』(共著、日経BP社)などがある。
[ブログ]犬にかぶらせろ! 〈http://www.hayamiz.jp/〉
●後藤和智(ごとう・かずとも)
1984年生まれ。現在、東北大学大学院工学研究科博士課程前期在学中(都市・建築学専攻)。04年から、自身のブログにて、俗流若者論の批判的検討を展開している。著書に『「若者論」を疑え!』(宝島社新書)『若者文化をどうみるか?』(共著、アドバンテージサーバー)など。
[ブログ]新・後藤和智事務所 若者報道から見た日本 〈http://kgotoworks.cocolog-nifty.com/〉
賛否両論。
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