今春闘の最大のヤマ場である金属労協(IMF・JC)加盟労組への賃上げ回答は軒並みベア・ゼロだった。景気も士気も盛り上がらないが、企業は雇用を確保して景気を下支えする責任がある。
やはり、と言うべきか。予想されていたとはいえ自動車や電機産業などの主要企業のベースアップ・ゼロ回答は衝撃的だった。定期昇給の一時凍結を申し入れるところもあった。連合の高木剛会長は「申し訳ない結果」とわびたが、春闘戦術の失敗は明白だ。
連合は昨年秋、景気回復期でも賃金が低下し続けたことや物価上昇、内需拡大などを理由に、今春闘での大幅賃上げ方針を決めた。自動車総連は四千円以上、電機連合は四千五百円以上のベア要求を決め各社労組もこれに従った。
だがこの半年で経済・雇用情勢は急速に悪化した。非正規雇用労働者の大量解雇や正社員を巻き込んだリストラが続出。労組の間でも「空気を読めない要求」に批判の声が出た。だが連合は「雇用も賃上げも獲得」にこだわった。
一方、経営側は最初から「賃上げは論外」と強硬姿勢だった。
たとえば今年も春闘相場形成のリード役となったトヨタ自動車。同社の営業利益は前期が二兆二千億円と過去最高だったが、今期は逆に四千五百億円の赤字になる見通しだ。危機感を抱いた経営側はベア・ゼロどころか定期昇給の引き下げを示唆したほどだった。
同時に工場で働く期間従業員の大幅削減を始めた。雇用不安が一気に拡大し、同社労組の賃上げ交渉力は勢いを失った。
各社業績の急激な悪化を考えれば、ベア・ゼロ回答などは仕方がないだろう。だが賃上げを抑えた以上、経営側には雇用維持と創出に全力を挙げる責任がある。
これ以上の人減らしはやめる。また、仕事を分かち合うワークシェアリングは労働時間短縮による緊急避難型が一部企業で導入されている。これは賃金引き下げで労働者側の負担が重い。むしろ新事業や新製品開発などを通じて雇用の創出を図るべきである。
雇用形態でも直接雇用を増やし正社員と非正規との待遇格差を是正していく。人材を育成し、従業員が「この会社で働いて良かった」と思わなければ将来はない。
春闘は中小企業労働者やパート・アルバイトの時給引き上げなどに焦点が移る。ここでも雇用の確保が重要課題であり、労組側は最後まで気を抜いてはならない。
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