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社説:志賀原発判決 耐震安全は恒常的に見直しを

 能登半島の西側にある北陸電力の志賀原発2号機について、運転差し止めを命じる判決を金沢地裁が下したのはちょうど3年前のことだ。原発の耐震安全性に疑問を持つ住民側の主張を認めた異例の判決だった。

 それが、18日の高裁判決で完全に覆った。北陸電力は胸をなでおろしたはずだが、住民側にとっては納得のいかない内容だろう。

 背景には、1審判決より後の06年9月に改定された原発の新耐震指針がある。1審では、それ以前の旧耐震指針に基づく耐震安全性が争点となった。直下地震の想定の甘さや、地震動を決める手法の古さ、近くにある断層への考慮不足など、住民側の主張を地裁は認めた。

 当時の判決には、30年近く抜本的な改正をしてこなかった旧耐震指針に警鐘を鳴らす意義もあった。地震学の新しい知見が積み重なっているのに対応しなかった国にも、それを追認してきた電気事業者にも責任があったはずだ。

 控訴審では、新指針に照らした耐震安全性が争点となった。北陸電力は新指針に基づいて、断層を評価し直し、直下地震も想定し直した。その結果、揺れの強さの想定を引き上げたが、それでも耐震安全は保たれていると主張してきた。耐震安全に余裕を持たせる目的で、配管などの補強工事も実施した。

 判決は国の新指針をよりどころに、電力側の主張を全面的に認めた。言い換えれば、新指針の妥当性も認めたことになる。新指針で全国の原発の耐震性をチェックし直しているだけに、電力側が敗訴すれば、原発政策への影響は非常に大きかっただろう。

 ただ、忘れてはならないのは、新しくなった耐震指針も、地震のリスクの見積もりも、100%確実とはいえないことだ。

 震源を想定しない直下地震ひとつとっても、新指針に沿ったマグニチュード(M)6・8の想定で本当に十分か、専門家の間でも議論がある。判決は、未知の断層がM7クラスの直下地震を起こす可能性を退けたが、地震学の知見の積み重ねなどによって、見方が変わる可能性がある。

 地震そのものにも、地震による建物の耐震性にも、不確実な部分が最後まで残る。だからこそ、柔軟な姿勢で、耐震安全性を常に見直していく必要性は肝に銘じたい。

 国の安全審査体制も完全とはいえない。第一に、原発の安全規制を行う原子力安全・保安院が、原発推進の立場にある経済産業省に属していることには疑問がある。

 保安院は今月、原発の安全性などを判断する審議会委員から利害関係者を外すと発表したが、中立性を保つことは当然だ。利益相反について透明性を高めることも、原発の安全確保には欠かせない。

毎日新聞 2009年3月19日 東京朝刊

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