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社説:闇サイト殺人 死刑基準めぐる論議深めよう

 一昨年8月、インターネットの闇サイトを通じて集まった男3人が、名古屋市の女性派遣社員を拉致、殺害した事件で、名古屋地裁が被告2人に死刑を、犯行後自首した1人に無期懲役刑を言い渡した。

 判決が「楽をして金をもうけようとした利欲目的」と指摘したように、金品を強奪するために徒党を組み、通りすがりの女性を襲って情け容赦なく命まで奪った残忍、非情な犯行である。急速に普及したインターネットの悪用の極みとして人々を震撼(しんかん)させもした。被害者が1人の殺人事件での死刑は異例とされるが、「社会の安全にとって重大な脅威」と位置づけて厳刑を選択した判決は、死刑制度が存続する以上、大方が支持するところだろう。

 改めて、冷酷な犯行を憎み、生命の尊厳を軽んじる事件が多発する昨今の風潮を憂う。3被告には責任の重さを心底からかみしめてほしいが、事件当時、犯罪者を募るという言語道断のサイトが野放しにされていたことも悔やまれる。

 市民が有罪無罪と量刑を判断する裁判員制度のスタートを目前に控え、極刑選択の当否が争われる事件が相次ぐのは、不思議なめぐり合わせかもしれない。先月も死刑が求刑されていた東京都江東区の女性殺害・死体損壊事件で、東京地裁が無期懲役刑の判決を下し、注目されたばかりだ。

 死刑については最高裁が83年に下した「永山判決」が一つの基準とされ、多くの裁判は原則として死刑を避けるべきだとの立場から判断されてきた。しかし、最高裁は3年前、山口県光市の母子殺害事件の判決で、一定の条件下では原則として死刑を適用すべきだとする考え方を示した。厳罰を求める世論が投影された、との指摘もあり、法曹関係者らの間では死刑基準が変更されたとの見方が広がっている。

 この間、検察庁が死刑を求刑するケースも、裁判所の死刑判決も、増加傾向を続けている。被害者対策を重視するあまり、報復感情が偏重される結果を招いているとすれば問題なしとしないが、歴史的には殺人罪への量刑が比較的緩やかだった面も否めない。

 一昔前は家庭内や親族間の犯行が多数を占め、被害者にも責任の一端が認められたり、親の所有物とする考えからか、子殺しが寛刑で処断されたことなどによるものだ。通り魔的な犯行が増え、児童虐待などが横行する今日、従来の量刑判断は見直しを迫られているとも言える。

 市民が刑事裁判に参加する今こそ、社会を挙げて刑罰論議を深めていかねばならない。いたずらに世論に迎合することなく、感情論に流されることもなく、市民の健全な良識で刑罰のあるべき姿を追求していきたい。量刑の是正、適正化も、裁判員裁判が目指すべき目的の一つだ。

毎日新聞 2009年3月19日 東京朝刊

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