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【社会】

証言「信じ込んでしまった」 日テレ・バンキシャ取材ずさん

2009年3月18日 朝刊

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 証言者の逮捕に続いて、トップの引責辞任に発展した日本テレビの番組「真相報道バンキシャ!」の虚偽証言報道問題。岐阜県の裏金を証言した元建設会社役員のウソをなぜ見抜けなかったのか。放送内容や日テレ、県の説明を検証すると、証言内容を十分に確認しないままうのみにするなど、取材のずさんさが浮かび上がった。

 「11月の5日ですね」「200万円」。昨年11月23日の同番組。顔にモザイクがかかった男が、県土木事務所の担当者に裏金を入金した経緯を証言した。「架空の工事をやったように見せかけて、裏金を捻出(ねんしゅつ)してくれと」。証言は、まったくの虚偽だった。

 説明による裏金づくりの仕組みはこうだ。建設業者は県からの工事代金から裏金を別の口座を経由して、県が用意した裏金口座に入金。裏金口座の通帳は県の担当者が管理し、元役員は渡されたカードで入金する−。

 だが、放送を見ただけでも不審な点は浮かぶ。証拠だという銀行の出金記録は、パソコンソフトで作成したような一覧表。裏金口座については「もう引き出されていますね」と言うだけで、決定的な証拠は示さない。

 日テレによると「バンキシャ!」は、全国の裏金問題を取材するチームを編成。インターネットのサイトで情報提供を呼び掛け、元役員から情報が寄せられた。岐阜県は社員と制作会社のディレクターら9人が担当。元役員には社外ディレクターが最初に接触。「思い込みを含めて信じ込んでしまった」(総合広報部)とする。

 岐阜県によると、最初の取材は昨年11月7日。武藤鉄弘・秘書広報総括監は「会計検査院による不正経理調査の関係で裏金の有無についてファクスで質問され、その夕、取材を申し込まれた。出納管理課長が応じ『土木関係で裏金があるのを知っているか』と質問された」と話す。

 20日も申し込みがあったが、裏金の証拠を見せる見せないで押し問答になり、結局、日テレ側は証拠を示さなかった。「取材源の秘匿のため」(総合広報部)という。

 放送後、県は関係者381人から聞き取り調査。955件の契約を2カ月かけて検証し、裏金は確認できないと断定した。先月18日、日テレに調査と訂正を要請。翌19日、偽計業務妨害容疑で元役員を岐阜県警に告訴した。

 番組では、元役員の証言として年間500万−1000万円の裏金を捻出したとしているが、県によると、元役員の建設会社が受注したのは2006、07年が1件ずつ。昨年は1件も受注していない。

 県は、公金支出の詳細をホームページで公開。受注状況を確認するのは容易だったが、日テレ側はそうした裏付けをしなかった。

 番組では「ほかにも10社ほどが裏金づくりに協力していると業者は話した」と報道。ここでも裏付けは「多分していない」(総合広報部)としている。

◆岐阜県警、取材テープ提出の必要性を慎重に検討

 岐阜県の告訴を受けた県警捜査2課と中津川署は、証言者として放映された同県中津川市の元建設会社役員蒲(がま)保広容疑者(58)を、同県の通常業務を妨げたとして偽計業務妨害容疑で9日に逮捕。番組関係者に任意で事情を聴き、捜査で取材テープが必要かどうかを慎重に検討している。

 番組放送後、県警は証言で「架空工事で裏金をつくっている」とされたため捜査。その過程で中津川市職員による公金詐欺事件への関与が分かったとして今年1月、蒲容疑者を詐欺容疑で逮捕した。

 県警の捜査関係者によると、証言した裏金づくりの手口は、同市での公金詐欺事件と同じ構図。市を県に置き換えて説明したものだった。以前もテレビに匿名出演して数千円から2万円程度の謝礼をもらったことから「小遣いほしさ」が動機と供述している。

 県警は謝礼の有無を含む取材の経緯なども捜査。テープの入手も検討しているが、久保伸太郎前社長は「謝礼は払っていない。(報道機関として)テープ提供の前例を簡単につくるわけにはいかない」としている。

 

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