「異議があります」。08年12月19日の第16回公判で、検察官が神田司被告(38)の父親(72)に「どんな刑が適切か」と尋ねると、弁護人がすかさず「意見を求めるのは不適切だ」と撤回を求めた。既に遺族が何度も極刑を訴えており、父親まで極刑と言えば情状面で不利になる。だが裁判長は異議を退けた。父親は「極刑が妥当じゃないかと思います」と息子を突き放した。
弁護人の一人は「検察側は公判の早い時期から死刑求刑を意識していた」とみる。公判の最大の争点は、一貫して「死刑の適否」だったといえる。
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死刑の適否を争う事件では「永山基準」と呼ばれる9項目の判断基準が必ず引用される。基準の一つが「結果の重大性(特に殺害の被害者の数)」だ。
日本弁護士連合会によると、永山判決(83年7月)以降、被害者1人で死刑が確定した被告は26人。身代金目的誘拐や仮釈放中の事件が大半を占める。被告が3人で全員の死刑が確定した例はない。
一方、04年の刑法改正で殺人罪などの法定刑が引き上げられるなど厳罰化が進む。死刑確定者数は89~03年に年1けただったが、04年以降は2けたに増え、07年は永山判決以降で最多の23人に上った。08年5月の長崎市長射殺事件の1審判決は「選挙を妨害し、民主主義の根幹を揺るがした」として被害者1人でも死刑を選んだ。
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「今は死刑か無期かの判断基準が分からなくなっている」。94年に愛知など3府県で4人が殺害された連続リンチ殺人事件で、強盗殺人罪などに問われた元少年=上告中=の弁護を担当した村上満宏弁護士はそう語る。3被告のうち元少年ら2人は1審で「追従的な立場だった」として無期懲役だったが、2審では死刑となった。
闇サイト事件では、川岸健治(42)、堀慶末(33)両被告とも「神田被告が殺害を主導した」と訴えている。だが、村上弁護士は元少年の例から「従犯でも積極的に殺害に関与すれば死刑になりうる」とし「行き当たりばったりの犯行」との弁護側の主張に対しても「最近は統制がない集団こそ厳罰にする傾向にある」と指摘する。さらに遺族が極刑を求めて集めた署名に触れ「(処罰感情の)厳しい遺族がいれば判決も厳しくなる」と話す。
遺族は「3人への死刑判決を聞きたい」と望む。弁護人は「死刑なら基準から一歩も二歩も踏み込んでしまう」と懸念する。ある検察幹部は言う。「最後は裁判官の自由心証だ」【秋山信一】
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■ことば
最高裁が83年7月、連続射殺事件の永山則夫元死刑囚への判決で示した。(1)事件の罪質(2)動機(3)態様(特に殺害手段の執拗=しつよう=性・残虐性)(4)結果の重大性(特に被害者数)(5)遺族の被害感情(6)社会的影響(7)犯人の年齢(8)前科(9)事件後の情状--を総合的に考慮し、責任が極めて重大でやむを得ない場合に死刑選択が許されるとした。
毎日新聞 2009年3月16日 中部朝刊