名古屋闇サイト拉致・殺害事件 1人無期懲役判決に母親が無念の気持ち語る
愛知・名古屋市千種区で2007年8月、闇サイトで知り合った3人の男に磯谷利恵さん(当時31)が拉致・殺害された事件の裁判で、名古屋地方裁判所は18日、2人に死刑、1人に無期懲役の判決を言い渡した。判決後、全員の極刑を求めて闘ってきた利恵さんの母親が、無念の気持ちを語った。
名古屋市の路上で、会社員・磯谷利恵さんが拉致され殺害された闇サイト殺人事件で、被告3人のうち、神田 司被告(38)、堀 慶末被告(33)に死刑判決が言い渡された。
川岸健治被告(42)は無期懲役だった。
母・富美子さんは「3人とも死刑判決を望んでおりましたので、川岸被告だけが無期懲役だということが、私としては納得いきません。やっぱり、悔しいとしか言えません」と語った。
1人に無期懲役の判決が出されたことが悔しいと語った富美子さん。
一方で、2人の被告に死刑判決が宣告されたことも、異例だといえる。
元東京地検検事の大澤孝征弁護士は「1人の被害者に複数、2人もの死刑判決が出たことは、極めてまれなケースと言っていいと思う」と語った。
死刑と無期懲役に別れた判決に、富美子さんは「川岸被告の自首が減免されたんだということが、私には納得いかないことでした」と話した。
事件が起きたのは2007年8月。
携帯電話のいわゆる「闇サイト」で知り合った3人が、帰宅途中の利恵さんを拉致し、キャッシュカードの暗証番号を聞き出すと、ハンマーで顔面や頭部を数十回にわたった殴打し殺害、その後、遺体を山中に遺棄した。
3人は「殺さないっていったじゃない。お願いします。殺さないで、死にたくない」と訴える利恵さんの声を無視し、殺害した。
利恵さんは、キャッシュカードで金を引き出そうとしていた3人に対し、偽の暗証番号を伝えていた。
富美子さんは「やはり、娘があの場で自分の気持ちを託すところは、暗証番号しかなかったと思いますので、娘なりに一生懸命考えて残した暗証番号だと思います。それが通らなかったのがかわいそうで、悔しいです」と語った。
利恵さんが話したカードの暗証番号は「2960」で、「にくむわ」と読めるものだった。
富美子さんは「でも、これで終わったわけじゃないから、絶対利恵ちゃんの意思を裁判官にもわかってもらえるように、ずっと訴え続けて、闘っていくとしか申せません」と語った。
富美子さんは、「殺害された被害者が1人の場合は、死刑になるケースは少ない」と聞き、極刑を求める署名活動を行い、およそ30万人分の署名を集めた。
富美子さんは「振り返ってというより、結果を見て振り返ると、日本の司法というのは、人を1人ぐらい殺したぐらいでは、『ごめんなさい』と言って自首したら、自分の命だけは守れるんだなと思いました。それっておかしいんじゃないの」と語った。
唯一、無期懲役を言い渡された川岸被告について、判決では「被告人川岸が犯行後、短時間で自首し、被告人・神田、および、被告人・堀の逮捕に協力し、その後に起こりえた犯罪を阻止し、本件各犯行の解決に結果として寄与した。その刑事責任は極めて大きいものの、自首の点を考慮し、無期懲役に処す」とし、自首が考慮されての減刑となった。
富美子さんは「張本人なのに、この闇サイトで募った張本人なのに、自首したということで自分だけ助かる。それはどう考えても、私には納得がいきません」と語った。
この点に納得ができなかったのは、富美子さんだけではなかった。
利恵さんと交際していた瀧 真語さんは「3人の被告に対して極刑を求めてきました。結果的に2人の被告は極刑・死刑。1人は無期懲役でしたけれども、その結果、3分の2が叶ったとは全然思っていません。もはやゼロに近いのではないか。望みは叶わなかったと思います」と語った。
瀧さんの部屋には、今も利恵さんとの思い出の品がたくさん残っていて、留守番電話にも利恵さんの肉声が残されている。
瀧さんは「磯谷利恵という1人の女性が生きた証し、それは本当にあったと思います。この公判を通して、利恵はまだ生きていたんじゃないか、まだきのうまで利恵はまだ生きているんじゃないか、今後も生き続けるんじゃないかと思っていましたが、きょうの判決、磯谷利恵という人が死にかかっている気がします」と語った。
今回の判決について、大澤弁護士は「被害者が1人でも残虐なケースについては、死刑になっている例が、最近目立っている。同じように、永山基準はあくまでも目安であって、具体的なケースについてあてはめた場合に、被害者の数をそれほど重視しなくていい場合があるということ」と語り、無期懲役の判決については「自ら出頭した場合には、こういう恩恵にあずかる可能性があるということを示しておく必要があると、裁判所は考えたのではないでしょうか」と語った。
遺族の怒りには、もう1つの理由があった。
瀧さんは「やはり、反省の態度が見られないというのが、われわれには、1つつらい公判の理由の1つだったと思います」と語った。
今回の裁判の中では、無期懲役の判決が出た川岸被告が「こうやってがん首並べとるのは、おまえらが悪いんじゃ」と、法廷で声を荒らげていた。
さらに、責任をなすりつける態度に反省の様子はうかがえず、富美子さんは特に、闇サイトで仲間を募った川岸被告について、「許せない」と話していた。
富美子さんは「最初は、何が何でも許さないという気持ちが強くて、初公判に臨みました。彼らに挑戦するような気持ちで臨みましたけども、傍聴してるうちに、人としての心など、ぜんぜん持ち合わせてない彼らを同じように見て、闘っていくことの馬鹿らしさ。だから、その時点から突き放したような感じで、わたしは見てましたし、ただただ裁判官にわたしの気持ち、娘の無念さをわかっていただきたい。それを、訴えるだけに、それだけを考えて闘ってまいりました。『川岸が自首したから、次の被害者を出さなかった』って、裁判官がおっしゃってましたけど、私は次の被害者を出さなかったのは、娘が本当の暗証番号を言わなかったからだと思っています。もし、娘が本当の暗証番号を言って、彼らがお金を手にしてたら、川岸が絶対に自首してないはずです」と語った。
閉廷後、傍聴席から「利恵ちゃんを返せ」という声に、3人の被告は振り向くことなく法廷をあとにした。
(03/18 18:31)