『仙谷由人の見た北朝鮮』
〜緊急の食料援助、そして次に日本人のなすべきことは〜
衆議院議員 仙谷由人
【各国との意見交換】
私は、以前より、日本国内だけでなく、世界各国の政冶的指導者と交流し、意見交換を行い、パイプづくりに努力しています。この夏も、中国・韓国・北朝鮮・アメリカを訪間し、それぞれの国の政治家・学者などと会見し、諸間題や今後の展開について討論をしてきました。これは、アジアとアメリカの真実をとらえ、この秋以降の日本の進路に、私なりの考え方をしめすためのものです。
【北朝鮮の現状】
北朝鮮は、1970年代には、『韓国より、はるかに上を行く経済力を持つ国』と言われ、特に、重化学工業は相当整備されていました。北朝鮮は、中国やソ連からの援助を受けていましたが、政情変化により、原油を無償提供してもらえなくなりました。また、自力で原油購入もできなくなり、工場がほとんど稼働できない(案内役の説明では3分の1が稼働)状況です。
農作物は、干ばつの影響もあるのでしょうが、非常に貧弱な育ちでしたし、『トウモロコシは3割のでき』との報告を実感してきました。米は非常に密生して植えてあり、『これでは日本のように多くは収穫できない』との意見がありました。
通った道は、舖装もなく曲がりくねり、でこぼこでした。中国と異なり、自転車も少なく、木炭自動車が走っていました。街には多くの人が出歩いていましたが、活気がなく、人々の表情は無気力に見えました。
また、食料・薬なども不足していて、出産時に栄養失調の母親が死亡しての孤児が多くなっているとの報告もあります。しかし、軍部と党の幹部・国民の3割ぐらいは、まだ飢えないでいると聞いています。
【北朝鮮は、何故、こんなことになったのか】
戦前、日本が開発したラジン港地区は、戦後50年間も社会資本の開発整備が止まっているとのことです。これらは、北朝鮮政府の政策の失敗で、農業も、農家の自由な経済活動に任せていたら、これほどのことにはならなかったのではないでしょうか。経済活動が哀退した原因は、全てを国家が決めて、個人が自分で考え工夫する自由がなかったためではないかと思います。
【北朝鮮はどうなるか】
このような国(北朝鮮)が隣にあることは、中国・日本にとって大変なことなのです。
《考えられる3つのケース》
(1)暴発する(やけくそになって戦争をする=実力行使で欲しいものを手に入れる)北朝鮮の上層部は、世界の情報をきちんと得ているはずで、行き詰まって、とんでもない行動をとる可能性は極めて少ないだろう。
(2)崩壊(自然消滅)をする。
(3)ソフト・ランディング(軟着陸)飢え死になどが起こらないようにして、改革・解放をし、何年か経ってから、韓国とうまく統一する。(一番望ましい方法)
【各国の意見は】
各国の政冶家・学者たちは、『早晩、ほぼ間違いなく、北朝鮮は崩壊自滅する』との意見の一致がありました。それが、3年から10年、20年、30年のうち、という状況による数字の見解の相違があるだけなのです。日本の一部には、『早く潰れた方がいい』との意見がありますが、日本の良識ある人や韓国の人たちには、『あまり早く潰れてしまっては困る』との意見が多くあります。なぜなら、経済力のある西ドイツが、東ドイツを吸収合併したときの苦しみを見てきているからです。さらに、今、経済的に発展状態にある韓国の人々が、北朝鮮を統一したときに負う、多大のマイナス影響を避けられないことを感じているからです。
【日本の心配】
日本の心配は、単に、『難民が何十万人くるかもしれない…』との問題だけではありません。実は、日本の経済にも大きな問題が生じるのです。バブル経済が破綻した今、日本経済界は、銀行の不良債権間題などで大変な苦しみしみを味わっています。これと同じことがまた起こる可能性が大きいのです。日本やドイツは、まだ経常収支が黒字で、どうにか経済を保っていますが、先日タイの通貨、バーツが急に下落して、大変な問題になりました。最近、急成長をしているタイや韓国は、経済収支(貿易収支)が赤字の中で、国際資本を呼び込んで、借金経営の中で成長しています。つまり、ここで、自国の通貨がドーンと下がることは、ドルに換算すると、その分借金が上がる、すなわち『通貨が半分の価値になるだけで借金が倍になる』のです。
日本の銀行は、タイにも韓国にも、相当の融資をしています。そこで、韓国が北朝鮮にお金をそそぎ込むようになれば、韓国経済もタイと同じようになるかもしれません。日本の銀行は、不動産融資・ノンバンク・住専で失敗し、今はゼネコンに大変な金を入れ込んでいて、これが焦げ付いて、のたうちまわっている状況です。その上に、タイ・韓国・香港・シンガポールに、バブルの勢いで融資をしていて、これが『紙切れで返ってくる恐れがなきにしもあらず』ということです。北朝鮮が崩壊すると、このようなことでも影響が少なくないと思いす。
【北朝鮮がとるべき道】
『ソフトランディング』が、韓国にとっても、日本にとっても、一番良いと思います(安くつきます)。中国のように、改革・解放をして、国民一人あたりの所得水準が上がるようにして、韓国との差が少なくなってから統一できるのが、望ましいことです。北朝鮮は、現状を素直に認めて、国際社会に援助を請うべきです!
『日本人拉致事件』『日本人妻の問題』など、人権上の問題もあり(私も、これらは、とんでもないことだと思っています)、日本の援助も、なかなか思うようにいかないところがあります。
【近隣諸国の今後】
日本・ロシア・中国・台湾・韓国・北朝鮮など、これら近隣諸国は、引っ越しをするわけにはいかないので、どこかで折り合いをつけ、仲良くやっていくしかありません。
【我々は何をするのか】
今、我々は何をしなければならないのでしょうか。
中長期的に見て、我々の子供の時代や、さらに少し先の時代を見て、今、我々が北朝鮮に何をしなければならないかを見据える必要があると思います。まずは、緊急の食料援助。次いで、農業援助(やり方などを根本的に、機材を持ち込んで指導する)。その次に、工業援助を、食品加工などからやらなければならないのではないかと思います。そうすることが将来の東アジアの安定に役立つものならば、日本は、北朝鮮に対する援助を進めるべきだと思います。