【テヘラン=久保健一】6月に実施されるイラン大統領選で、ミルホセイン・ムサビ元首相(67)が出馬を表明した。ムサビ氏は改革派ながら、保守強硬派アフマディネジャド大統領のキャッチフレーズである「イスラム革命原理への回帰」の再定義を訴え、保守派内の反大統領勢力への浸透を図っている。保守派内に呼応の動きが広がれば、ムサビ氏を軸に「第3の極」が形成され、1990年代後半から続く「保守派対改革派」の枠組みが一変する可能性もある。
ムサビ氏が首相を務めたのは1981〜89年。改革派の前身「急進派」勢力を率いてイラン・イラク戦争(80〜88年)を遂行、統制色の濃い経済政策を推し進めた。2月に出馬表明したハタミ前大統領との選挙協力・候補一本化も模索したが、合意に至らなかった。
10日に発表された出馬声明文で、ムサビ氏は「短期的な利益のため、国家資源を浪費する愚を避けなければならない」と述べ、アフマディネジャド大統領のポピュリズム的バラマキ政策を厳しく批判した。
ムサビ氏は、アフマディネジャド氏が、革命原理の根幹である「被抑圧者の解放」を目指して貧困層救済政策を推進したにもかかわらず、結果として高インフレを招き貧困層を苦しめた点を批判しているとみられる。「革命を成し遂げた民衆は、(真の)革命原理の実現を忍耐強く待っている」とも述べた。
ムサビ氏の発言が「保守派内でのアフマディネジャド氏への不満の高まりを強く意識した」(地元記者)ものであることは確実だ。実際、保守派の有力者で元国会議員のホシュチェヘレ氏はイラン学生通信に対し、「ムサビ氏は改革派と保守派双方から支持を集めるだろう」との見方を示した。
ムサビ氏の「実務家としての能力」(元国会議員のハデム氏)を評価する声も強く、大統領選出馬待望論もある保守穏健派のガリバフ・テヘラン市長の支持層を吸収する可能性もある。
改革派からの出馬表明は、カルビ元国会議長、ハタミ前大統領に続き3人目。ムサビ氏は、首相時代を知る中年以上の改革派層の支持を集める可能性があり、選挙戦は混戦模様となってきた。