【ワシントン=渡辺浩生】公的資金注入を受けて経営再建中の米保険最大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)で、公的資金の不適切な使用が相次ぎ判明した。幹部社員に高額なボーナスを支給する計画が明らかとなったほか、公的資金を受け取ってから取引先の欧米金融機関に巨額な支払いを続けていたことも発覚。ウォール街への国民不信は頂点に達しつつある。
総額1億6500万ドル(約162億円)のボーナスが、「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」を扱う金融商品部門の幹部に支給される計画だ。CDSとは証券化商品が焦げ付いた際の元利を保証する取引で、この保証契約を多数結んでいたAIGは昨年9月、経営危機に陥った。その後AIGは4回にわたり計1700億ドルもの金融支援を財務省や連邦準備制度理事会(FRB)から受け、政府が発行済み株式の約80%を保有するまでになった。
経営危機の“A級戦犯”とも言えるこの部門への高額ボーナスだけに、ガイトナー米財務長官は先週、AIGのリディ最高経営責任者(CEO)に電話で見直しを迫ったものの、AIG側は有能な人材を流出させないためにやむを得ないと説明。サマーズ国家経済会議委員長は「言語道断」と怒りをあらわにした。
また、AIGは15日、昨年9月以降、CDSの保険支払いや証券担保融資を返済した有力取引先を公表した。「誰の手にお金が最終的に渡ったのか」(米紙ニューヨーク・タイムズ)といった公的資金の不透明な使い方を問題視する世論や議会の圧力を背景にFRBが公表を求めていた。発表によると、米金融大手ゴールドマン・サックスに129億ドル、仏ソシエテ・ジェネラルに119億ドル、ドイツ銀行に118億ドルが支払われ、総額で約960億ドルに上る。
巨額の税金が、AIGの救済策を当時まとめたポールソン前財務長官の出身企業であるゴールドマンや、外国金融機関に流出、AIGの経営危機で取引先が本来負うはずの損失を政府が補填(ほてん)したことに等しい。
また、証券大手のメリルリンチが幹部社員約700人に1人当たり100万ドル(約9000万円)超のボーナスを前倒して支給していたことも、先月発覚している。
こうした血税を注がれる金融機関の厚顔無恥ぶりに、生活不安が広がる庶民の怒りは沸騰し、大衆系メディアの矛先はウォール街(金融街)の重役に向かっている。ABCテレビは、バンカメのルイスCEOが自家用ジェット機から降りる場面をヘリで撮影して放送。過熱する報道は「議会の責任追及にも圧力をかけている」(同紙)ほどだ。
オバマ大統領も先月の施政方針演説で「CEOたちは自分の給料を水増ししたり、自家用ジェット機に身を隠したりするために納税者のお金を使うことはできない」と述べ、公的支援を受けた企業の経営陣の報酬制限を打ち出している。
【関連記事】
・
景気後退「年内脱却も」 FRB議長、AIGに立腹
・
AIG、資金の提供先公表 欧米大手が軒並み受領
・
“リーマン・ショック”から半年 暗中模索続く
・
英保険大手が交渉撤退 AIGのアジア部門
・
「AIGはヘッジファンド」 FRB議長、無責任さ批判