大阪の目抜き通り、御堂筋と長堀通の交差点にある喫茶店サザンクロス(大阪市中央区西心斎橋1)が22日閉店する。
78年9月の開店当時、朝7時から夜9時の間に店の前を通ったのはわずか750人だった。不安はあったが成松孝さんは商社を辞めて喫茶店主になった。750人は30年を経て2万5000人にふくれ上がった。
都市の魅力は人通りの多さではなく、憩いの多様性にある。周囲に先端的なビルが増えていく中でサザンクロスは「パリの下町」的なシックな店構えを守り通した。2階にはさりげなくグラスワインを置いた。夕暮れの街角がグラス越しににじむ。深夜の客は潜水艦のような地下のスタンドバーが迎えた。
ニューヨークからふらりとやって来た米国人画家に2階の天井を提供した。深夜から未明の制作作業。夜食を提供しながら待った。7カ月後、イチョウ並木をモチーフにした天井壁画の大作が完成した。
街づくり団体の先頭に立って集客特区構想や御堂筋の歩道倍増などを国や自治体に提案し続けたのも、憩いを点(店)から面(地域)へと広げてこそ、新しい都市の繁栄が実現するとの信念からだった。
高架道路を撤去して自然河川を復元した韓国ソウルの清渓川プロジェクトを一緒に見に行ったとき、成松さんは少し悔しそうだった。長堀通に川の流れを取り戻す提案をまとめ、ほんの一時期だが実現に動きかけたことがあったからだ。
「にぎわい」の中に沈もうとしているサザンクロス。不況のためとはいえ、街が失うものは大きい。最後はコーヒーか。それともワインにしようか。(編集局)
毎日新聞 2009年3月15日 大阪朝刊