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そして昼前になって、ようやく妻から電話が入った。

「やっぱり亀裂骨折だって。ギプスで固定したけど、2週間もすればくっつくみたい」

「そうか。で、本人は?」

「全然元気よ。調子に乗って危ないくらい。これからお昼を食べて、買い物して帰るから」

結果的に島の整骨院とは治療方針に若干の差はあったものの診断に相違はなく、親としてはこれでひと安心だ。夕方に港へ迎えに行くと、息子はお土産にドーナツを抱えて、すっかりご機嫌な様子で船から降りてきた。

「お昼は何を食べてきたの?」

「チーズバーガー!」

「おいしかったか?」

「うんっ!」

離島に暮らす子供にとって、都会でしか味わえないハンバーガーやドーナツは、元気を与えてくれる「特効薬」かもしれない。我が家の家計においては大きな出費となったが、息子のケガによる精神的苦痛は思った以上に和らいだようで、それだけを取ってみても、鹿児島の病院まで行った甲斐はあったといえる。

「2週間したら、また鹿児島の病院へ行って、ギプス取るんでしょ?」

息子はしっかりと先生の説明を聞いていたらしい。

「ギプス取ってレントゲンを撮るだけだから、それは屋久島でもいいんだって」

「えー。オレ、鹿児島の病院でやって欲しい!」

息子は今回のケガを機に、苦痛を楽しみに変えられるだけの強い精神力をも、身につけたかもしれない。

菊池 淑廣(きくち・よしひろ)

1969年、東京生まれ。1993年にスポーツウェアメーカーに入社。一貫して広告宣伝の仕事に携わり、自ら撮影、コピーライト、デザイン制作までマルチにこなす。

2005年4月、家族共々屋久島へ移住。それと同時に広告事務所「屋久島メッセンジャー」を設立し、雑誌やウェブサイトなどを通じて屋久島の情報を発信しながら、広告プランニング、撮影、コピーライト、ロケ・コーディネートなど、幅広く活動している。著書に「屋久島で暮らす あるサラリーマンの移住奮闘記」(山と溪谷社)。

ブログ「フォトライター菊池の屋久島移住ライブ日記」も公開中。

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