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社説

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日テレ社長辞任―詳しい説明の責任がある

 いったい、何の責任をとったのだろうか。

 日本テレビの久保伸太郎社長が16日、突然、辞任した。

 同局の報道番組「真相報道バンキシャ!」での誤報の責任をとったというが、重い結論に至った経緯はよくわからないままだ。同局内で行われたという検証の中身についての具体的な説明がなにもないからだ。

 問題の番組では匿名の男が登場し、岐阜県が裏金作りを続けていると証言した。岐阜県は独自調査をし、こうした事実はないという結論を得た。そして日本テレビに対し、放送法に基づいて調査と訂正を求めた。

 日本テレビの再取材に対し男は証言を翻し、証拠とした書類も改ざんしたものだと認めた。同局は今月1日の番組で謝罪。一方、岐阜県警は偽計業務妨害の容疑で男を逮捕した。

 NHKと民放で作る第三者機関「放送倫理・番組向上機構」(BPO)の放送倫理検証委員会でも審理することが決まった。

 内部告発をもとに報道機関が取材をし、大きな不正が暴かれた例は数多い。勇気をふるって発言する人と徹底的に調べて公表する報道の仕事は、社会正義を実現するために不可欠だ。

 相手が公的機関であれ民間会社であれ、十分な裏付け取材のうえで発表するのが報道の基本だ。その点、「バンキシャ!」はあまりにお粗末だった。

 誤報がはっきりした後も、何がどう間違って誤報につながったのか、問題の所在を明らかにしていない。

 このままでは、報道全般に対する視聴者の信頼を失いかねないし、不正を告発しようとする人を萎縮(いしゅく)させる心配もある。

 07年に起きた関西テレビの「発掘!あるある大事典2(ローマ数字の2)」の問題では、番組作りを受注した制作会社の不正と、それを監督できなかったテレビ局の責任が厳しく問われた。

 日本テレビでは06年にもニュースの映像で「やらせ」が判明した。これも制作会社の取材を確認せず放送したケースだった。「バンキシャ!」も、複数の制作会社が参加したチームがスクープを目指した過程で起きた。

 優れた報道番組を作っている制作会社ももちろんあるが、報道について十分な教育をされていない取材者が功をあせれば、誤報を生む危険は大きい。それを防ぐ教育とチェックは、発注するテレビ局側の責任である。

 面白い番組をコストを抑えてつくろうとする傾向の中に、誤報を生む落とし穴がなかったか。

 再発防止と報道への信頼回復のために、日本テレビは徹底的に調査・検証し、番組などで公表する必要がある。それが巨大な影響力を持つ報道機関としての義務である。

若田さん出発―宇宙滞在をどう生かす

 宇宙飛行士の若田光一さんが、スペースシャトル・ディスカバリーで宇宙へ飛び立った。

 18日には国際宇宙ステーション(ISS)とドッキングし、日本人として初めて長期の宇宙滞在に入る。ISS内に日本が築いた宇宙実験棟「きぼう」での本格的な活動も始まる。

 地球に再び戻るまでの3カ月、若田さんの活躍を見守りつつ、宇宙で人間が活動することの意味や、日本の宇宙開発は何をめざすのか、将来をも併せて考える機会にしたい。

 若田さんは、米国とロシアの乗組員と手分けしてISSの運用に当たるとともに、氷の結晶を成長させるなどの科学実験をする。長期滞在の利点を生かした成果を期待しよう。

 宇宙で腕立て伏せはできるのか。目薬はどうやってさせばよいか。一般から公募したおもしろ実験も行われる。無重量状態の中で芸術作品を作る計画もある。子どもたちの好奇心を育む機会としても活用したい。

 日本にとってISSは、きぼうの建設費約5500億円をはじめ、毎年約400億円の運用経費など、合わせて1兆円を投じる巨大な計画だ。

 しかし、ISSの今後は予断を許さない。米国は来年、ステーションを完成させた後、老朽化したスペースシャトルを引退させ、月や火星をめざす計画に全力を注ごうとしている。それ以後はロシアのソユーズ宇宙船を使って、ISSを2015年まで運用することにしている。

 オバマ政権の宇宙政策はまだよくわからない面もあるが、月や火星をめざすなら国際協力が重要になるのは間違いない。

 日本もそうした国際的な動きをにらんで、ロボットなど技術面での強みを生かして貢献するにはどんな形で参加するのがよいか、考えておくべきだ。

 ISSは米国やロシアの事情で大幅に遅れたうえ、計画も縮小されて日本は大きな影響を受けた。一緒に参加している欧州諸国も同じ憂き目にあった。大国頼みの計画の欠陥だ。これを教訓に、国際協力のやり方を工夫する必要もあるだろう。

 そんな中、政府の宇宙開発戦略本部の専門調査会は今月初め、2020年にまずロボットで、25〜30年ごろにはロボットと宇宙飛行士が連携して月探査を行う計画案を示した。

 独力で日本人飛行士を月面に送り込むのは、日本にとって大変な挑戦であり、巨額の投資が必要だ。やはり国際協力で進める方が現実的だという考え方も出てこよう。

 5月にまとめる宇宙基本計画に盛り込むかどうかを検討するという。だが、専門家だけの非公開の議論で決められることではあるまい。国民に開かれた論議の場が必要だ。

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