岩堀 良弘氏:発電マンの太陽光発電塾
第20回 太陽光電力を高値で買い取る 日本版FIT制度を占う
日本の新制度(経産省案)との比較検討
価格推移、対象事業者、費用負担者
(4)買い取り価格の推移
買い取り価格――ドイツでいうところのタリフ――は、太陽光発電の普及に合わせて、年度ごとに下がることになっています。初めに設置導入した人ほど買い取り価格を高くし(その価格が10年間続きます)、後から導入する人ほど買い取り価格が低くなることは、普及促進にとって大切なことです。次年度に買い取り価格が下がることが分かっていれば、早めの設置の動機付けになります。やはりドイツのようにどれくらい下がるかを予告する方が、さらに効果的といえるでしょう。
今回の案では既に発電装置を設置している利用者にも買い取り価格が適用されることになっており、過去果敢にリスクを取って太陽光発電を設置した人にも恩恵が行き渡る形なので、この点は評価できます。
ただ制度開始から3〜5年までに設置する利用者が対象となっている点に関しては、少し設定期間が短いのではないかと感じます。あまり短期間に多くの需要が集中し、流通の対応ができないほどのバブル状態になった場合、後の反動も大きくなります。あくまで需要動向を見ながら場合によっては7〜10年でソフトランディングするような、柔軟な対応が必要ではないでしょうか。
(5)対象となる事業者
対象は個人・企業となっていますが、(3)のところで見たように企業の場合、ほとんど余剰電力が発生しにくいので、メリットは限定的です。そもそも企業の場合は電力料金単価が住宅用よりも安く設定されていて、その安い業務用電力料金の2倍といった価格設定では導入意欲は沸かないのではないでしょうか。やはり住宅用並の買い取り価格を適用しなければ、普及効果は少ないといえます。この部分に関してはまだこれから検討するようですし、十分議論の必要があると思います。
また、今回の案では再生可能エネルギーのうち、太陽光発電に限定しており、他の再生可能エネルギー(風力・バイオマス・地熱など)は固定価格買取制度(FIT)の対象になっていません。FITは自由度の高い制度ですので、エネルギーの種類によって買い取り価格(タリフ)を変えるなどなんらかの対策を検討していただきたいものです。
(6)費用の負担は誰が?
買い取り価格が高くなる分は、広く浅く全国の電気利用者が負担する形となっています。その結果、1カ月の電気代が一般家庭で数10円から100円程度上がると想定しています。
買い取り価格がドイツほど高くなく、また余剰電力のみの買い取りであるため、利用者への負担は最小限に抑えられています。
確かにこれぐらいの金額ならば比較的負担感は少ないと思いますが、たとえ少ない額でも電力料金に上乗せするのですから、経費の透明性を高め、投資が無駄にならないよう監視することが絶対に必要です。またそもそもの制度説明を十分に行い、国民の合意を得る努力も必要です(地球環境イニシアティブ「やるぞ!日本!Yes100円」など、
NGO団体らによる活動も始まっています)。
ドイツが大胆な固定価格買取制度(FIT)を導入して再生可能エネルギーの爆発的な普及を図ったのは、1に経済・雇用対策、2にエネルギー保障が目的でした。1、2の達成を目指して太陽光発電が普及すれば、温暖化対策にも自動的に貢献します。
環境と経済は相容れないというのは幻想に過ぎず、完全に両立することがドイツの例で証明されたのです。しかも、今この新しい産業分野で世界的な遅れを取ることは、今後数十年に渡る数十兆円という大きなビジネスチャンスをみすみす逃すことになります。
今回経産省が思い切った方針変更をしたのも、このことが分かったうえでの判断だと思います。それならば、中途半端な政策ではなく、本当に日本がこの分野でトップを走る環境を整えるような、日本独自の政策を立てるべきでしょう。
もちろんそれが固定価格買取制度(FIT)である必要はなく、効果のある制度なら何でもよい訳です。しかしながら現在の世界の情勢、各国の実績を見て判断すれば、固定価格買取制度(FIT)が最も費用対効果が高いことは明白です。
底の見えない不況から一刻も早く脱出するためにも、即効性のある制度をスピーディに導入することが望まれます。
この連載のバックナンバー
- 第20回 太陽光電力を高値で買い取る 日本版FIT制度を占う (2009/03/11)
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- 第18回 住宅用太陽光発電システムの施工について(パート2) (2009/02/12)
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