「同じ地上で生活したくない」−。「全国犯罪被害者の会 あすの会」の代表幹事で弁護士、岡村勲は平成9年、自分が担当した企業絡みの逆恨みから妻を殺害した男に対する思いをそう表現した。
男は無期懲役で服役しているが、岡村は今も「死刑しかない。前科を重ね、判決文にも刑務所に入るごとに反社会性を増して出てくるとあった」と憤りは変わらない。それだけに、刑務所には、「せめて(加害者を)社会から隔離しておいてくれと言いたい」。
また一般論として、「出すなら、いいことをしなくてもいいから無害にしてほしい。同じような被害者を出したくなくてこの会を作ったのだから」と言いつつ、こうも問いかける。
「『生きて償う』という人に教えてもらいたい。何が償いになるのか」
◇
千葉県に住む夫婦、井上保孝(59)・郁美(40)は11年11月28日、家族旅行の帰り、東名高速で飲酒運転のトラックに追突され、車が炎上、3歳と1歳の娘を亡くした。加害者は業務上過失致死罪で懲役4年の刑に服した。16年2月、出所直後に自宅を訪れ、謝罪、こう約束した。
「二度とお酒は飲みません」「ハンドルも握りません」「やったことから逃げません」と。「また、来ます」とも言ったが…。
「受刑中から月命日にお供えは送ってくる。本当の命日も(月命日と)同じように。でも、この日は違うだろうと、手紙の一枚でも入っていないかと見るけど…」と保孝。郁美も「これで終わりにされちゃったんだろうか」とつぶやく。それでも、すがるようにいう。「約束を守り続けていてくれれば、償っているという気持ちは持てる。理想をいえば、過ちを犯した自分のようになるなと、飲酒運転の抑止を言い続けてほしい」
刑務所に望むことは−。
「遺族が望めば、遺族がどういう生活をしているのか加害者に情報を伝えるべきだと思う。私たちは手紙や娘の写真も送りました。結局、はがき一枚返ってこなかったけど。被害者が置き去りにされないような刑務所になってほしい」
実際、以前は受刑者の心情安定のため、事件のことには触れないようにしていた面もある。が、旧監獄法が改正された18年からは「被害者の視点を取り入れた教育」プログラムが導入され、6〜10人の小グループで3〜6カ月、「命の尊さ」の認識や「謝罪及び弁償についての責任の自覚」などを、ビデオや体験発表で深めるようになった。
「受刑者に、被害者の存在を念頭に置いて生きていくことを覚悟させるのがねらいです」とは、法務省でプログラム作りにも参加した川越少年刑務所首席処遇官、川島敦子(41)。
とくに遺族が、残された者のつらさや悲しさを語るビデオは、川島も「何回見ても泣いてしまいます。受刑者も誰も言葉が出てこない」。が、手応えは感じつつも思案顔で語る。
個々の受刑者が現実問題として被害者とどのように向き合うかについて、「ビデオに答えはありませんから」。
=敬称略
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