国内の景気について、百パーセント近い人が「悪化」と感じていることがわかった。山陽新聞社加盟の日本世論調査会が実施した全国面接世論調査によると、「悪くなっている」は57・8%と過半数を超えた。「どちらかといえば悪くなっている」の38・6%と合わせると96・4%に達した。昨年三月の前回調査(77・7%)に比べて大幅に増えており、日本経済の深刻さがあらためて浮き彫りになった。
「景気悪化」を身の回りで感じる理由で、最も多かったのが「失業者が増えている」の56・2%だった。自分や家族の失業に対する不安については「強く感じている」23・6%、「少し感じている」41・1%と、計64・7%が不安を抱いていた。政府に求める政策も「雇用対策」がトップで45・4%(複数回答)だった。
非正規労働者だけでなく、正社員にまでリストラの波が押し寄せている。厚生労働省が二月末に発表した企業の人員削減による昨年十月から今月までに職を失ったり、失う見通しの非正規労働者は、全国で十五万七千八百六人に上る。正社員で職を失う人は九千九百七十三人と一月の調査から52・8%も増加した。採用内定を取り消された学生は千五百七十四人で過去最悪だった。世論調査の数値は、厳しい雇用情勢を反映したものといえよう。
雇用情勢の急激な悪化を受け、政府、与党が新たな雇用対策を検討している。注目されるのが、雇用維持のために仕事を分かち合う「ワークシェアリング」だ。自民党の雇用・生活調査会が、残業を減らして非正規労働者らの雇用を維持した企業に対する支援制度などを盛り込んだ緊急雇用対策をまとめるなど、関心が高まっている。
世論調査では、ワークシェアリングについて「賛成」が69・8%と、「反対」の25・3%を大きく上回った。労働者にとっては収入減につながる面もあるが、欧州では公的支援を制度化している。雇用維持の方策として、どれだけ有効か、検討を進めてもらいたい。
新たな雇用対策は、今月中に自民、公明両党で正式決定し、麻生太郎首相が検討を指示した追加経済対策の柱として、二〇〇九年度補正予算案に組み込まれる。しかし、悠長に取り組んではいられない。雇用不安が続けば、個人消費を後退させ、一段の景気の悪化を招く。雇用維持や再就職支援のための対策を早く具体化し、雇用への不安を取り除くことが必要だ。
四月にロンドンで開く二十カ国・地域(G20)の首脳会合(金融サミット)へ向けた準備の場として注目されたG20財務相・中央銀行総裁会議が閉幕した。世界経済の成長回復のため、政策協調を進めていくことを確認した共同声明を採択し、国際的な連携姿勢を示したかっこうだが、内実は景気刺激策と金融規制のどちらを優先するかをめぐり、米国と欧州の足並みの乱れが露呈した。
景気刺激策で、米国は国内総生産(GDP)の2%の財政出動を各国に要請した。国際通貨基金(IMF)の提言を踏まえたもので、日本も同調した。しかし、欧州では財政悪化への懸念からドイツやフランスなどが数値目標の設定に反対し、声明への明記が見送られた。
金融市場の規制、監督の強化でも、声明にはヘッジファンドの規制強化策として登録制の導入が盛り込まれた。ところが、市場に対する米欧の考え方の違いから、具体的な運用などについては結論を先送りした。
中国やインドなどの新興国も存在を高めている。声明では発展途上国支援のため、IMFの財政基盤強化を掲げたが、中国などは資金拠出の見返りに発言権の拡大を要求しており、IMFの運営を主導する欧米と綱引きになっているという。
日本は、アジアの民間企業による環境関連事業を後押しするため、五十億ドル(約四千九百億円)規模の新たな支援制度を創設することを表明した。得意とする環境技術も活用して、途上国の支援につなげたい。
米国と欧州、先進国と新興国、それぞれの間のミゾが鮮明になった今回のG20といえよう。意見の対立を乗り越え、具体的な政策につなげるため、金融サミットまでに各国の真摯(しんし)な調整が求められる。
(2009年3月16日掲載)