雑誌記事開成凋落 日比谷の落胆AERA3月16日(月) 13時10分配信 / 国内 - 社会二つの「異変」が、この春、東京で起きた。―― 東京の開成高校といえば、1982年以来、30年近くにわたって東京大合格者ランキング首位の座を守ってきた中高一貫校だ。その名門私立を「異変」が襲った。 10日に発表された東大前期入試の合格者数は130人と、昨年の前後期合計の188人から58人のマイナス(3月13日現在)。22日に発表される後期入試は定員100人と狭き門のため、大幅な積み増しは期待できそうにない。首位は保ったものの、2位の東京・筑波大附駒場との差は現時点で、昨年の114人から33人へと縮まった。 開成の進路指導担当教諭はこう説明する。 「現役合格者が79人と、昨年より50人近く減ったのが響いた。今年はセンター試験の平均点が低かったため、理科1類などで足切り(第1段階選抜不合格)を恐れて東大を受験しなかった生徒もいて、現役の受験者数自体が大幅に減っていた」 開成が伸びる前の1960年代まで、ランキング首位をキープし続けていたのが都立日比谷高校。こちらも、今春の東大入試は「期待はずれ」に終わりそうだ。 ■「敗因」は平易な英語 日比谷は「都立再生」の象徴的存在として2001年、都の進学指導重点校に指定された。独自の入試問題作成、7時間授業、土曜講習、夏休みの課外授業など、「予備校顔負け」の徹底した学力向上対策で、07年には28人の東大合格者を出した。昨年、13人と落ち込んだ反動から、「今年は30人超えも」と期待されたが、前期の結果は16人。 「自己採点の結果などから、もうちょっと行けると思っていましたが、非常に厳しいですね」 と長澤直臣校長は落胆した様子で話す。 「2次試験の英語の問題がやさしかったのが響いた。うちはいつも英語で点数を伸ばすのですが、問題が簡単だったために他校と差がつかなかったようです。やはり高校の3年間だけでは東大は苦しい。英数国の基本を固めるのに、3年生の半ばまでかかる。そこから、社会、理科2科目をしっかりと身につけていくとなると、どうしてもギリギリになってしまう」 やはり進学重点校に指定され、昨年28人の合格者を出した西も、今年は前期15人と半減しそうだ。 「現役はほぼ例年どおりと受け止めていますが、今年は浪人生に東大を受験する人自体が少なかった」 と進路指導担当の秦野進一教諭は言う。浪人した生徒たちが、早慶に受かった時点でそのまま進学を決め、東大受験をやめてしまう傾向もあったという。 ■現状に満足する傾向 他の進学重点校も苦戦している。前期合格者は国立12人、八王子東7人、戸山5人、青山2人、立川1人と、いずれも現浪合わせて20人に届かなかった。 都立高にとって逆風だったのは、数年来続いた私立中学受験ブームの存在だ。今の3年生が中学に進学したのは03年。首都圏の私立中学受験比率が大きく上昇し始めた時期と重なる。中学受験に詳しい森上教育研究所の森上展安代表は、都立を取り巻く状況に同情的だ。 「ハンディ戦のなかでよく頑張ってきたとは思います。もともと、私立中に成績上位層を取られているうえ、入ってくる生徒たちは中学3年間、『ゆとり』カリキュラムにどっぷり漬かっている」 しかし、冒頭の開成の例に見られるように、都内の私立中高も今年、東大入試で苦戦した。とくに男子校は、麻布が昨年比5人減の71人、桐朋が11人減の21人と、前期合格者段階で軒並み減少している。前期31人と昨年より13人減らした海城の春田裕之学習指導部長は、その背景をこう語る。 「学力よりも精神的な弱さが出てしまったのではないか。模試でA判定、B判定を受けている子も、本番では落ちてしまった。人間的なスケールが小さいとでもいうのか、現状に満足する傾向も強く、今年の高3は高2段階であまりに志望が低かったので、『もっと上を狙え』と学校側が盛り上げたくらい。他校でも似たような傾向があるらしく、こういう結果になるのではないかと、じつは昨年夏ごろから、進路指導担当者どうしで憂慮していたのです」 「何がなんでも東大を目指す」という志向が弱まっているのではないか、と指摘するのは、高校入試に詳しい安田教育研究所の平松享副代表だ。 「都立進学重点校の生徒から『なんで東大、東大って言うのか。早稲田など、ほかの大学でも勉強はできるじゃないか』という声も出ていると聞く。『ドラゴン桜』的なものは、東京でははやらないのでは」 全体として、 「都立高も私立中高一貫校も、東京の学校は、『東大を目指そう』と努力する地方に押され、割を食った」(代々木ゼミナール入試情報センター・坂口幸世本部長) という感じなのだ。 ■都立は3年後に期待 ところで、今春、もう一つ、大きな「異変」が起きた入試がある。東京の私立中入試だ。森上教育研究所の調べによると、10年ぶりに、2月1日の私立中学受験比率が低下した。中学受験ブームにも陰りが出てきたようだ。 この「急ブレーキ」は不況の影響だと森上さんは断じる。 「2年ぐらい前から、予兆はありました。『御三家に落ちたら公立中から日比谷に行けばいい』と考え、学費の安い国立校や公立中高一貫校とだけ併願する家庭が出てきたのです」 実際、今年の都立高(全日制)入試の受験倍率は1・41倍と、単独選抜制度になった1994年度以降、最も狭き門となった。西では、合格した女子受験生の全員が入学手続きをするなど、「都立回帰」の動きは確実に起きている。 「彼らが大学を受験する3年後に何が起こるか。小石川や両国など、主な都立中高一貫校も1期生が受験する年。期待はできるかもしれません」 編集部 甲斐さやか、土屋 亮、鈴木琢磨 ライター 堤谷孝人 (3月23日号)
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