日本テレビの久保伸太郎社長が辞任し、取締役相談役に退くと発表した。報道局長らも役職罷免などの処分を受けた。昨年11月に放送した報道番組「真相報道バンキシャ!」でうその証言を報じ、信用を損ねたという理由だ。裏付け取材を怠ったまま、虚偽の情報を公共の電波で流した責任は重い。
番組では、顔にモザイクをかけた男が匿名で登場し、「岐阜県が裏金づくりを続けている」「架空の工事を受注したように見せかけて、県庁の職員に200万円の裏金を振り込んだ」などと語っていた。
事実なら重大だ。岐阜県では06年に総額17億円に上る裏金の存在が発覚していたからだ。ところが証言は虚偽だった。男は今年1月、別の詐欺事件で逮捕され、岐阜県からの要請で日テレが再取材した結果、男は「裏金を送金した事実はない」と証言を翻したという。
岐阜県は番組放送直後から大がかりな調査をしていたが、虚偽証言によって県の業務に支障が出たとして告訴し、岐阜県警が今月9日、男を偽計業務妨害容疑で逮捕した。報道での証言が刑事事件に問われる極めて異例の展開だ。
男は他局に匿名出演したこともある。「謝礼ほしさだった」と容疑を認めているという。テレビをはじめ各メディアにはさまざまな情報提供や内部告発が寄せられるが、それを基に取材し、報道する責任はメディア側が負う。報道には十分な裏付け取材が欠かせないのは当然のことだ。日テレはその点が不十分だったことを深刻に受け止め、猛省しなければならない。
日テレは謝礼の支払いを否定している。いずれにせよ、男と日テレ側の間にどんなやり取りがあったのか、どこに問題があったのか、日テレは詳細な検証を行い、公表しなければ、視聴者の理解は得られまい。
「バンキシャ!」は、ここ1カ月の平均視聴率が17%を超える人気番組だ。高視聴率を狙ってセンセーショナルに走ろうとする傾向はなかったか。また、実際の取材は日テレと下請けの制作会社が合同で行ったというが、取材・報道倫理の面で十分な意思疎通がなされていたのかについても疑問が残る。
テレビの報道・情報番組で不祥事が相次いでいる。07年に関西テレビの「発掘!あるある大事典2」で捏(ねつ)造(ぞう)問題が発覚し、それを契機に放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会が設立されたが、放送された内容に不十分な取材や不適切な演出があるとして同委員会の審議対象になる案件が急増している。こうした事態をテレビ界全体が重く受け止める必要がある。
事実関係の確認が不十分なまま報道がなされれば、メディア全体に対する国民の信頼を低下させる結果を招きかねない。そのことを改めて自覚したい。
毎日新聞 2009年3月17日 0時10分