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ニュース断面:「待機児童全国最多」の仙台市 「全面解決」目指し模索 /宮城

 仙台市の保育所に入所できない待機児童の急増に歯止めがかからない。今年4月1日現在で740人に上り、前年度の390人からほぼ倍増。全国の市区町村で最多となった。市は来年度から3年間で解消を図る緊急対策を立案。老朽化した公立保育所を民営化し、削減できた経費などを対策費に充てる考えだが、民営化には反対の声も根強い。保育を希望する父母は今後も増える可能性があり、「全国最悪」から「全面解決」への道のりは簡単ではなさそうだ。【鈴木一也】

 ◇10月1日時点で1398人に--全国的にも増加に転じる

 仙台市保育課によると、市内の待機児童数は04年の246人から増え続けている。認可保育所への入所を希望しながら認可外保育所などに入所している児童を加えると、1087人に増加。10月1日時点では1398人に膨れ上がった。

 急増は仙台市に限ったことではない。厚生労働省によると、4月の全国の待機児童数は昨年の1万7926人から1万9550人と、5年ぶりの増加に転じた。仙台市を除く県全体でも昨年の416人から530人に増え、大崎市が137人で最多となっている。

 仙台市内には現在、公立49、民間68の計117カ所の保育所がある。定員数は03年の8684人から1万764人と2000人以上増えているが、「それでも追いつかない状態」(同課)という。

 同課は待機児童急増の要因に、(1)出産後に社会復帰する女性が増え、保育を希望する児童の割合が高まっていること(2)0歳児の数が06年から300人以上増えていること--などを挙げている。

 待機児童解消の一番の近道は保育所の増設。だが財政負担が大きく、来年度の開所予定は民間保育所(定員90人)1カ所のみ。同課の安住斎課長は「金銭的な援助も含め、民間がもっと保育に参入しやすい環境を整えることが急務」と話す。

 認可保育所以外の施設を活用する方法もある。市が独自に認定・助成する認可外保育所「せんだい保育室」は、59施設で定員2106人。4月現在の入所者数は1626人で、多少余裕がある。

 保育士か看護師の資格を持つ人が自宅で3歳未満児を預かる「家庭保育福祉員(保育ママ)制度」には19人が登録し、最大95人の児童を保育できるが、利用は約50人。06年10月から可能となった幼児教育と保育を一体的に行う「認定こども園」の設置も、東京都の19件、秋田県の12件などに比べ、宮城県はわずか1件にとどまる。

 6月の市議会本会議では、保育士の資格が無くても保育ママになれるよう条件を緩和したり、認定こども園制度の保護者への周知、運営法人への助成増額などを訴える市議の質問が相次いだ。

 土地区画整理事業で人口増が続く地域は待機児童が多く、逆に過疎地域は保育所が定員割れと、地域間でのミスマッチも難しい課題となっている。

 ◇3年で2300人受け入れへ--市が緊急対策を立案

 待機児童解消に向け、市は来年度から3年間で約2300人の児童を新たに受け入れる緊急対策を立案。民間保育所新設への支援など、総事業費は30億円を超える見通しだ。

 対策の中身は、市が用地を確保して民間保育所新設を促進▽幼稚園の空き教室を利用した保育サービス拡充を補助▽せんだい保育室や保育ママの資格要件を緩和--など多岐にわたる。あらゆる子育て事業を総動員し、「待機児童ゼロ」を目指す。

 効果はどうなるのか。東北福祉大の和田明人准教授(児童福祉論)は「保育の質」の面を見落としてはならないと警鐘を鳴らす。全国で進む保育所民営化について「質の議論があいまいなまま、民営化だけが進んでいる」と分析。質の向上には新しい保育者の育成が欠かせないが、経費削減のため新規採用が減り、不安定な非正規雇用が増えていると指摘する。

 「待機児童解消には、いろんな空間を活用した柔軟で多様な保育サービスの確立が重要だが、それをやるのは『人』。きちんと保育できる人材の育成が急務」と和田准教授。すべての親が満足して安心できる保育の実現へ、残る課題は少なくない。

 ◇波紋呼ぶ保育所民営化--不安募る保護者や保育士

 「保育所の民営化」も波紋を呼んでいる。10月29日に大野田保育所(太白区)で開かれた、民営化に伴う7回目の保護者説明会。参加した約15人の保護者や保育士は、市の担当者に民営化への不安を訴えた。

 「担当の先生が途中で替わるなんて、子供がかわいそう」

 「保育士は切り捨てにされるのか」

 市は81年以前に建てられ老朽化した公立保育所22カ所を2016年までに廃止し、民間法人に設置・運営を委託する方針を決定。最初の民営化先に選ばれたのが、同保育所と原町保育所(宮城野区)の2カ所だ。

 大学教授や市職員らでつくる選定委員会が、9月に運営法人を決定。来年4月から保育所と運営法人間の引き継ぎと合同保育を開始し、同10月の新保育所開所を目指す。

 説明会に参加した半田澄江さん(36)は、大野田保育所に子供を預けている保護者の一人。最も心配なのは、年度途中の10月に新保育所に切り替わることだ。「子供は建物が変わるだけで不安になるのに、大好きな先生まで途中でいなくなってしまうのは大きな負担」と懸念する。

 現場で働く保育士も不安を隠せない。市職員労働組合保育所担当の横山美幸保育士は「両保育所で働く約50人の職員はどうなるのか。他の保育所を紹介するといっても、民営化で公立保育所が減っていくと働く場所がなくなる」と憤る。

 保育所民営化は「小泉構造改革路線」の下、多くの地域で始められた。だが、スムーズに移行した例ばかりではない。民間への引き継ぎが性急で一部の園で保育水準が低下したとして、自治体側に賠償を命じる判決が最高裁で確定(昨年11月)した例もある。

 市保育課は「公立で立て替えると民間より費用がかかる。運営費の削減と効率化を待機児童解消への対策につなげたり、保育の質を上げて多様化する保育ニーズに対応できる」と理解を求める。

毎日新聞 2008年11月21日 地方版

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