千葉 マニフェスト

千葉県知事選挙を読み解く(上)求められるリーダー像と県政の方向

12日に告示され、5氏による争いがスタートした千葉県知事選。早稲田大学マニフェスト研究所の林紀行事務局長が、複雑になっている各候補と政党との関係を整理するとともに、それぞれの基本方針から求められるリーダー像を読み解く。林事務局長は、5氏の目指す県政に大きな差異は見られず、小さな争点における政策内容が重要になると指摘する。
5氏による争いがスタート

 12日に告示され、29日に投開票が行われる千葉県知事選挙がスタートした。2期8年務めた堂本暁子知事が引退することになり、今回の選挙は、元衆議院議員の森田健作氏、社会福祉法人理事長の八田英之氏、元県議会議員の西尾憲一氏、関西大学教授の白石真澄氏、いすみ鉄道前社長の吉田平氏の新人5氏による争いとなった。

 今回の知事選は、次期総選挙が近いことから、各政党の対応が注目されている。2001年の選挙では、政党の推薦を受けなかった堂本暁子氏が、自民党や民主党の推薦候補を破って初当選した。また、2期目となる2005年の選挙では、堂本氏が森田健作氏らを破って再選することになる。この2回の選挙では、1990年代以降、全国で主流となった無党派候補が勝利し、地方政治が国政とは連動しなくなりつつあるとしてみられていたが、今回の選挙は、政党が表舞台に登場したり、消えたりと、状況が複雑になっている。
千葉県知事選挙を読み解く(上)求められるリーダー像と県政の方向|写真
合同個人演説会に臨む5氏
(撮影:神山玄太)
 今回の知事選の候補者を政党との関係で分類すると、与党の関係者が支援するのが、森田氏、白石氏、西尾氏である。ただし、どの候補者を推薦するかについては、党本部と県連などで意見が分かれ、自民党、公明党は推薦を見送り、自民党千葉県連が自主投票、公明党県本部が白石氏の支援を決めた。これに対して、野党の関係者が支援する側をみると、八田氏を共産党が推薦し、民主党、社民党、国民新党が吉田氏を推薦することとなった。

候補者名政党の推薦その他
森田健作なし自民党県議が支援
八田英之共産党 
西尾憲一なし元県議会議員(自民)
白石真澄なし自民党の県議、公明党県本部が支援
吉田 平民主、社民、国民新党堂本知事が後継に指名


候補者と政党の関係

 では、各候補者に対して、各政党はどのようにかかわっているのだろうか。まず、与党からみると、与党の関係者が支持する候補者陣営からは、「国政を地方に持ち込むな」という声が上がっている。低迷する内閣支持率や国会のドタバタ劇などで、国民の既存政党への政治不信は増大している。こうした背景もあり、候補者の側は、国政とは距離を置き、選挙戦を展開したいというのが本音のようである。また、山形県知事選、北九州市議選、大分市議選と大型選挙で逆風を感じた与党は、今回の選挙は地方選挙の一つに過ぎないと位置づけ、選挙の結果によって生じる責任問題を避けようとする動きがみられる。

 次に、野党側についてみると、国政レベルでは、国民の支持を拡大してきた民主党であったが、一連の「政治とカネ」をめぐる問題で、支持率が低下したため、政党が表舞台に出ないよう、配慮しているようである。ただし、社民、国民新党は吉田氏を党として推薦していく動きを打ち出している。こうした動きに対し、共産党は、政党色を前面に打ち出して、推薦している八田候補とともに選挙戦を展開している。

 以上の点を総合すると、当初は、国政の対立構造を今回の選挙に持ち込み、次期総選挙の前哨戦にしようという動きがみられたが、最終的には、どの政党の推薦を受けているのか、誰が応援しているのかということは、県民の支持を獲得するプラスの材料にはならず、候補者側の政党離れが進みつつあることが分かる(一部の候補者をのぞく)。そうすると、今回の知事選において、当初想定されていた政党の支持は、有権者の判断材料になるかどうかは微妙であり、投票する際に重視するポイントは何かという疑問が生じる。

東国原知事と橋下知事の選挙戦に学ぶこと

 今回の千葉県知事選には、大きな争点がないとされる。確かに、近頃の選挙をみると、大型公共工事などその地域だけに関係する争点がある事例をのぞくと、これまでにみられたような保守対革新のような政策の対立軸はない。そのような場合には、東国原英夫宮崎県知事や橋下徹大阪府知事の高い支持率をみて、候補者のタレント性やカリスマ性に期待する見方もあるが、この二人の知事は、それだけで当選したわけではない。

 たとえば、東国原知事は、選挙戦の序盤では、メディアから泡沫候補扱いされていた。しかし、選挙戦が進む中で、「宮崎をどげんかせんといかん」という明確なビジョンとそれを裏打ちする政策を掲げた「そのまんまマニフェスト」が候補者のイメージと一体となって、県民の支持を受けた。橋下知事も同じく、自身の体験とあわせ、「子どもが笑う大阪」に力点を置いた「おおさかを笑顔にするプラン」を打ち出し、それが府民に評価された。このことからも分かるように、人物と政策の要素はどちらか一方だけでは足りず、人物と政策が醸し出すハーモニーが重要なのである。

基本方針からよむリーダー像

 では、今回立候補している5人の候補者の人物像と県政に対する基本方針はどのようなものなのか、またそこからよみとれるリーダー像とは何かを次にみていきたい。5人の候補者のリーダー像について、千葉県のために役立つ候補者の経験、県政の運営方針、新知事の使命という観点からまとめたのが下記の表である。(ここでは各候補者のHPおよびマニフェストから抜粋した)

【森田氏】
(千葉県のために役立つ候補者の経験)
・前回の知事選で、95 万人を超える県民の皆さんからのご期待をいただいた。
・19年前に、芝山町で森田農場を始め、自宅も構えた。生涯、千葉に根を下ろすことを決めた。
(県政の運営方針)
・「政党のための県政」ではなく、チームスピリットを発揮した「県民第一の県政」。
・県民、議員、県職員の皆さんの叡智や総力を結集する“チームスピリット”のもと、「日本一の光り輝く千葉県政づくり」をめざす。
(新知事の使命)
・千葉を輝かせるための具体的なアイデア、決断力、実行力なら、私は絶対に誰にも負けない。
・千葉県全体をもっと輝かせ、皆さんの心に元気と活力を取り戻し、首都圏をリードしていく千葉にするのが使命。

【八田氏】
(千葉県のために役立つ候補者の経験)
・富津市育ちで現在も富津市在住、キッスイの千葉県人。
・山梨や福岡の病院の再建を果たした病院経営・病院再生のエキスパート。現在も県内の社会福祉法人理事長として活躍中。
(県政の運営方針)
・県民には格差と貧困をもたらし、その一方で大企業いいなりの今の県政を県民本位、県民の暮らし第一の県政に変える。
(新知事の使命)
・県民の切実なねがいと運動を真摯に受けとめ、その実現のために勇気をもって立ち上がる新しい知事。
 
【西尾氏】
(千葉県のために役立つ候補者の経験)
・船橋市議会議員一期と早10年目になる県議会議員の経験。
(県政の運営方針)
・環境福祉県
(新知事の使命)
・一人でも多くの県民の命を守るために、自分の命を懸けたい。
・千葉県の発展のために、県民の幸せのために、そして地球と人類のために一生懸命努力をしたい。
・高額な知事の退職金と報酬の見直し。

【白石氏】
(千葉県のために役立つ候補者の経験)
・県教育委員会や小中学校でのPTA活動、政府・自治体の公職経験。
(県政の運営方針)
・『チーム千葉』での県政運営。
・県民、議会、職員との「わ」を大切にした県政運営。
(新知事の使命)
・安易な財政拡大を防止するとともに、無駄の徹底排除など県政改革を行う。
・知事の任期を3期までとした「多選禁止条例」を制定します。 
・知事給与・賞与を2割カットし、知事公舎の県民への開放など、多目的利用のあり方を検討します。 

【吉田氏】
(千葉県のために役立つ候補者の経験)
・房州で生まれ、千葉で育ち、仙台に行き、東京で勤め、そしてまた千葉に戻ってきて働き暮らしています。千葉を本当に愛しています。
(県政の運営方針)
・すべては県民の視点から。県民の力を信じ、県民と共に進む。
・命と雇用を守る政策に最優先で取り組む。
・ ガラス張りの県政運営で徹底した無駄の排除。
(新知事の使命)
・新しい知事には民間の経営感覚と政策を決断・実行するリーダーシップ。


 まず、候補者の経験からみていくと、5人に共通することは、公務員出身ではなく、民間人であるということである。政治家、社会福祉法人理事長、学者、企業経営者とその経験は多岐にわたっている。次に、県政運営の基本方針をみると、多くの候補者に共通するのが、県民中心の県政を実現するという点である。すべての候補者が、現在の県政運営の問題点を指摘しており、その解決手法には、候補者自身の民の経験に裏打ちされた政策が必要であることを指摘している。そして、新しい知事に求められることは、これまでの県政を見直し、その改革の先頭に立って県民のために働くリーダーである。

重要なのは政策内容

 以上のことから分かるように、候補者の経験は多岐にわたり、それをどう判断するかは個人の考えによって異なるだろうが、5人の候補者が目指す県政の基本的方向に大きな差異はみられないということである。こうした点は、諸外国に比べると、同質的な社会であるわが国の社会事情などがその要因であると考えられるが、今後、行われるであろう多くの選挙でも、政策の振れ幅が小さい争点で候補者同士が争うことが予想される。

 そうしたときに、重要となるのが、政策内容である。厳しい経済状況をどう変えていくのか、県民の生活をどのように守っていくのかという方向性は、今回の知事選の争点としてどの候補者にも共通している。そこで候補者間の差別化を図るためには、そのためにどのような政策を実行し、その政策コストはどれぐらいかかり、それが県民生活にどのような効果をもたらすかということである。

 そこで、千葉県知事選挙を読み解く(中)では、県民生活をどう守るのかという視点から、千葉県知事選挙を読み解く(下)では、経済、財政をどう立て直すのかという視点から各候補者の政策を比較し、各候補者が目指す千葉県像について考えていきたい。

   早稲田大学マニフェスト研究所事務局長 林紀行
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