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きょうの社説 2009年3月16日
◎花園小が台湾へ アニメが後押し次世代交流
金沢市花園小の児童が五月に台湾を訪れ、同校出身でもある八田與一技師が建設した烏
山頭(うさんとう)ダムを見学し、墓前祭にも参列することになった。八田技師を描いたアニメ映画「パッテンライ!!」がまいた新たな交流の種が、次の世代へ結実した好例といえよう。映画上映に合わせて県が参加者を募っていた中学生派遣団二十人も今月下旬に台湾を訪 れる予定であり、日台交流の担い手が石川の地から育ってくるのは心強い。台湾との定期便が就航した昨年は「誘客集中イヤー」として観光客誘致に力が注がれたが、今年はアニメ映画を追い風に、次世代の双方向交流を広げる年にもしたい。 八田技師のアニメは映画館での公開に続き、今年に入って小学校で上映会が相次いでい る。それまで一部にとどまっていた八田技師の認知度が一気に広がり、とりわけアニメという媒体の分かりやすさによって子どもたちの関心が高まったことに大きな意味がある。 花園小の台湾訪問では、児童を中心に保護者や地元住民を含めて約四十人が、烏山頭ダ ムや同校が友好提携する嘉南小などに足を運ぶ。八田技師の墓前祭では、技師をたたえる歌を合唱する。 八田技師の功績であるダムを実際に目にし、現地の人々の思いに触れれば、児童もその 存在の大きさを強く実感することだろう。八田技師を通じて、台湾への関心や学びの意欲が深まることを期待したい。 台湾では烏山頭ダムの世界遺産登録をめざす運動も動き出した。台湾が国連やユネスコ に加盟していないためハードルは極めて高いが、運動が広がれば、烏山頭ダムが建造物として世界一級の価値があることを台湾全土に伝えることになり、それは八田技師の評価がさらに高まることを意味する。 台湾では日本統治時代を知る日本語世代が確実に減っている。若い世代は日本のアニメ や流行などに興味を抱いていても、日本の社会や日本人への関心には必ずしも結びついていないとの指摘もある。台湾でも「パッテンライ!!」上映が早く実現し、八田技師を縁にした交流が次世代に広がることを望みたい。
◎沿岸捕鯨の再開 妥協案を実現させたい
国際捕鯨委員会(IWC)の作業部会が示した妥協案は、日本の沿岸捕鯨の再開を認め
る代わりに、南極海での調査捕鯨の縮小・廃止を求める内容で、捕鯨国と反捕鯨国の歴史的な合意が可能である。反捕鯨国の理不尽な要求を一定程度のまざるを得ないのは残念だが、現在の調査捕鯨を続けても本格的な商業捕鯨再開の展望は開けない。古くからの伝統を受け継ぐ国内四地域での沿岸捕鯨を再開させ、捕鯨文化の灯を絶やさぬようにすることも重要だ。妥協案をたたき台にして、次期総会までに合意にこぎ着けたい。妥協案は、網走(北海道)、鮎川(宮城県)、和田(千葉県)、太地(和歌山県)で、 ミンククジラなどの日帰り捕鯨を認める、とした内容である。条件付きながら、沿岸捕鯨の再開に向けた議論が始まる意義は大きい。北西太平洋のミンククジラは約二万五千頭と推定されており、採算に見合うだけの捕獲が認められるなら、地域の活性化にもつながるだろう。 中間会合では実質的な議論はほとんど行われず、日本も具体的な提案を見送ったが、合 意に向け焦点となるのは、調査捕鯨と沿岸捕鯨の捕獲頭数の設定だ。沿岸捕鯨再開には、調査捕鯨の廃止または大幅な縮小が条件となる見通しで、▽ミンククジラは捕獲頭数を毎年減らして五年後にゼロにする。ザトウクジラとナガスクジラは捕獲禁止▽捕獲枠を決めた上で向こう五年間継続―の両案が示された模様である。政府は「廃止は受け入れない」としながらも、捕獲頭数の削減には柔軟に応じる姿勢を示している。 これに対し、オーストラリアなどの反捕鯨国は、調査捕鯨廃止を強く主張している。日 本が調査捕鯨の頭数削減案を提示しても、容易に妥協しないだろう。意見の隔たりが大きく、調整は難航しそうだが、反捕鯨国が多数を占めるIWCで、商業捕鯨再開に必要とされる四分の三以上の賛成を得るのは事実上不可能と思わねばならない。日本から遠く離れた南極から日本沿岸を含めた北西太平洋へ漁場を移していく案は現実的であり、大胆な妥協も必要だ。
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