真山青果作の忠臣蔵の通し。10本の連作の中から昼夜で3作ずつ計6作の上演。3人の大石内蔵助が持ち味を発揮した。
昼の「最後の大評定」の大石は幸四郎。歌六の井関徳兵衛とのやりとりに、剛直さの中にある情がのぞく。歌六が屈折感を出し、種太郎の紋左衛門に若さとはかなさがある。
「御浜御殿」は仁左衛門の綱豊、染五郎の助右衛門。鷹揚(おうよう)に構えていた綱豊が、助右衛門の直情に激しく揺さぶられる。緊迫したセリフの応酬の中に2人の変化が表現された。富十郎の勘解由、芝雀のお喜世、秀太郎の江島とそろう見応えのある一幕。
序幕の「江戸城の刃傷」では梅玉の浅野内匠頭、弥十郎の多門伝八郎が優れる。
夜の「南部坂雪の別れ」の大石は團十郎。ひたすら耐える姿を印象づけ、誤解がとけた後に瑶泉院(芝翫)と雪の中で心を交わし合う場面に情感を出した。芝翫が芯の通った女性を格調高く見せる。
「仙石屋敷」の大石は仁左衛門。仙石伯耆守(梅玉)の調べにもおくせず、信念を述べる。優れた口跡が説得力を生んだ。梅玉が快挙への喜びをあらわにし、大衆の心情を代弁した。弥十郎の吉田忠左衛門に存在感がある。
「大石最後の一日」の大石は幸四郎。懐が深く、磯貝(染五郎)、おみの(福助)への慈愛が感じられる。福助が恋に命をかける娘のいちずさを感じさせ、染五郎が心情の揺れを見せた。歌六の伝右衛門が好演。26日まで。【小玉祥子】
毎日新聞 2009年3月12日 東京夕刊