猿之助が現代によみがえらせた鶴屋南北作品の猿之助一門による上演。奈河彰輔脚本・演出、石川耕士補綴(ほてつ)、猿之助演出。
大名の由留木家で、悪家老によるお家騒動が起きる。忠臣の父を殺された与八郎(段治郎)と恋人の重の井姫(笑也)は、奪われた宝と敵を求め、東海道を旅する。
江戸に向けての道中物の体裁を取る。テンポよく場面が展開する中で、登場人物がさまざまな騒動に巻き込まれる。
趣向も盛りだくさんだ。まず「岡崎無量寺」。猫の怪(け)である右近の老女が不気味さと軽妙さを出し、最後は宙乗りを披露する。犠牲になる女を演じる猿琉の動きが鮮やか。
「箱根賽(さい)の河原逸平内」は「忠臣蔵六段目」を思わせる場面。右近の江戸兵衛が小気味いい敵役ぶりで、猿弥の逸平の朴訥(ぼくとつ)さとの対比が生まれた。門之助が遊女屋の女房で処世にたけた雰囲気を見せる。
序幕の「大津石山寺」からすっきりとした二枚目ぶりを示していた段治郎が、「逸平内」では「小栗判官」を思わせる手負いとなっての哀れな姿を見せ、「大滝の場」で重の井姫の献身で復活する。笑也とも良き取り合わせ。
女性版「弥次喜多」の狂言回し的存在のおやえ、おきちの2人組は、笑三郎と春猿。息のあった掛け合いで芝居のすき間を埋める。猿弥のもう一役の水右衛門も憎らしさがうまく表現された。適材適所の配役が生きている。23日まで。【小玉祥子】
毎日新聞 2009年3月16日 東京夕刊