春は旅立ちの季節。落語界では林家いっ平さん(38)が「昭和の爆笑王」と呼ばれた父・林家三平師匠(80年、54歳で死去)の名を襲名する。29年ぶりの三平復活だ。二代目三平は平成の爆笑王を目指し、新たなスタートを切る。【油井雅和】
東京・根岸の「ねぎし三平堂」(JR山手線鶯谷駅下車。水曜、土曜、日曜に開館)には三平師匠の遺品が数多く展示され、落語会も開かれる。遺品を整理する際に「捨てないで」と叫んだのが、9歳で父と別れた4人兄弟の末っ子、海老名泰助(たいすけ)君(本名)。兄(林家正蔵さん)を追うように89年、落語界に飛び込んだ。
「三平という名前は、永久欠番の3番(巨人・長嶋茂雄終身名誉監督)だとずっと思っていた」
05年、兄がこぶ平から九代目正蔵を襲名。大規模なお練りは落語ブームとも呼ばれる追い風のきっかけにもなった。「ずっとそばで兄貴を見ていると、少しずつ正蔵らしく変わっていくんです」。兄を見ながら、父の名を継ぎたいと思うようになっていった。「時代がたつにつれて、父を知っている世代が少なくなる。名前をご存じでも父の絶頂期は知らないし、当時のビデオはほとんど残っていない。ならば僕が、三平の名を研ぎ続けていかないといけないと思いました」
■どうぞ叱咤激励を
襲名イベントは兄に負けないほど空前絶後の規模に。
ファンに感謝するイベント、「日本全国感謝の会」(8日)には東京・両国国技館に6500人を無料招待し、ビートたけしさんや舘ひろしさんら豪華ゲストが登場。襲名披露パーティー(12日、帝国ホテル)には850人が出席し、海老名家もマスコミの前に久しぶりに勢ぞろいした。
「プレッシャーはもちろんあります。でも、名前を継ぐことでお客様が初代と見比べてくれる。それを叱咤(しった)激励にして伸びていきたいと思うようになりました」
夏から放送が始まるTBS系ドラマ「水戸黄門」に「ちゃっかり八兵衛」役でレギュラー出演が決まった。襲名行事とともに京都での撮影をこなす日々が続く。
そして、弟を見守る兄がいる。「兄貴と僕とは違う方向を走っていると思う。僕のやりたいのは和やかな落語。兄貴はきちっとした正蔵らしい落語。和やかさを最大限出せる名が三平。その違いがあるからこそ兄弟でやっていてもぶつかり合うことがないんです」
■黄門や怪談噺も
新・三平の夢はふくらむ。
「講談の水戸黄門漫遊記は有名ですが、落語で黄門をやってみたい。目の前で黄門様(里見浩太朗さん)を見てますから。あと、大きな先の夢ですが、怪談噺(ばなし)をやりたいんです。三平が怪談噺やったらどうなるんだろうって。自分でも楽しみなんです」
まずは襲名披露興行の成功が第一。「チャレンジ精神は忘れちゃいけない。オヤジはいつもチャレンジしていましたから。失敗してもいいんです。父が得意にした『源平盛衰記』もやりたい」
豪華メンバーによる口上と新・三平の明るい高座をぜひ寄席で楽しみたい。
■にぎやかな披露興行へ
21~30日12時半(昼席)、上野・鈴本演芸場▽4月1~10日16時45分(夜席)、新宿・末広亭▽4月11~20日11時40分(昼席)、浅草演芸ホール▽4月21~30日13時(昼席)、池袋演芸場
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■「三平物語」公演中
29日まで、明治座(浜町、人形町、水天宮前駅下車)。出演は風間杜夫(三平)、熊谷真実(妻・香葉子)ほか。問い合わせは03・3660・3900(明治座チケットセンター)。
■秘蔵ネタ満載本
「昭和の爆笑王 ご存じ 林家三平傑作集」(毎日新聞社、1890円)
■ねぎし三平堂
http://www.sanpeido.com/
毎日新聞 2009年3月16日 東京夕刊