児童虐待の1つである養育拒否(ネグレクト)の一形態で、親が子供に必要な治療を受けさせないこと。病院に連れて行かない、薬を飲ませないなどのほか、合理的な理由なく手術を拒否するなど子供の生命に直接かかわることもある。背景には、親の死生観や子供の障害への悲観などがある。厚生労働省が全国の児童相談所を通じて2006年に行った調査では、親の治療拒否で子供が死亡したケースが2件判明した。
(2009年3月15日掲載)
東日本で2008年夏、消化管内の大量出血で重体となった1歳男児への輸血を拒んだ両親について、親権を一時的に停止するよう求めた児童相談所(児相)の保全処分請求を家庭裁判所がわずか半日で認め、男児が救命されていたことが14日、分かった。
子供の治療には通常、親の同意が必要で、主治医は緊急輸血が必要だと両親を再三説得したが「宗教上の理由」として拒否された。病院から通報を受けた児相は、児童虐待の一種である「医療ネグレクト」と判断した。
医療ネグレクトに対しては過去に一週間程度で親権停止が認められた例があるが、即日審判は異例のスピード。児相と病院、家裁が連携して法的手続きを進め、一刻を争う治療につなげたケースとして注目される。
関係者によると、当時1歳だった男児は吐き気などを訴えてショック状態となり、何らかの原因による消化管からの大量出血と診断された。病院は「生命の危険がある」と児相に通告。児相はすぐに必要書類をそろえて翌日昼、両親の親権喪失宣告を申し立てるとともに、それまでの緊急措置として親権者の職務執行停止(親権停止)の保全処分を求めた。
家裁は6、7時間程度の審理で親の意思より子供の福祉が優先すると判断、その日夜に保全処分を認めた。
病院はこれを受け、家裁が選任した親権代行者である弁護士の同意を得た上で治療を実施。男児は命を取り留め、その後請求取り下げで親権を回復した両親の元で順調に育っているという。
輸血拒否への対応については関連学会が08年2月、合同で指針をまとめており、病院側はこの指針に従って対応した。
●命を最優先 手法共有を
【解説】わが子の治療を拒む親への親権停止の保全処分をわずか半日で認めた今回の家裁の判断は、1週間から数週間かかっていた従来の審理時間を大幅に短縮し、事故や病気で一刻の猶予もない子供たちの治療に道を開いた。こうしたノウハウを全国の児童相談所や医療現場で共有し、1人でも多くの命を救う武器として活用してほしい。
日本には親の治療拒否に対する特別な制度がなく、現行法では親権を取り上げる「親権喪失宣告」と、その結論が出るまでの間、親権を停止する保全処分を請求するしかない。だが一時的でも親権停止すれば戸籍に記載され、親子関係を壊しかねないなどの懸念があり、児相の現場は慎重にならざるを得ない。請求に至るのはまれだ。
今回の男児を治療した病院と児相は普段から頻繁に連絡を取り合い、子供の命を最優先に対応する連携態勢が地域に培われていた。そうした取り組みが迅速な対応につながった意義は大きい。
ただこの方法は、親権はく奪までは意図せず、一時的な処分を求め、その間に治療しようといういわば“苦肉の策”だ。
子供が必要な治療を受ける権利を保障するため、親権をその部分に限って停止する新たな制度の必要性は2007年の児童虐待防止法改正時にも議論されながら先送りされた。親の意思で幼い命を犠牲にすることのないよう、本腰を入れて検討する時期が来ている。
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