物事には手順がある。それを1つ1つきちんと踏んでいかないと、後で疑いの目を向けられることにもなる。
まさに福岡市立こども病院・感染症センターの移転、新築問題が典型例だ。
岡山以西で唯一の小児専門病院で、市内だけでなく、福岡県内や九州内、さらに遠くからも患者を受け入れている。
だが、市内中心部に近い現病院は築後30年近くを経て老朽化し、手狭になった。そこで、市は博多湾東部で整備が進む人工島(アイランドシティ)に広い用地を確保し、新築する計画を立てた。
ところで、病院移転の前にそもそも人工島事業自体に市民の根強い反対があった。吉田宏市長も2006年秋の市長選で事業見直しを公約に掲げて立候補し、当時の現職を破った経緯があった。
吉田市長は公約に沿って市役所内部に事業の検証・検討チームをつくり、人工島を含む複数の候補地について検討、その中には現在地での建て替えもあった。
そして、出された結論は人工島が最適だった。だが、現病院の患者と家族を中心に人工島移転には反対の声が上がっていた。現地建て替えの希望が強かった。
当然だろう。現病院を中心に生活を組み立てていれば人工島は遠くて不便だ。
しかし、建て替えは工期が約5年と長期にわたり、費用も130億円近くと人工島移転の約1.5倍に膨らむ。市はこんな試算を出して建て替え案を退けた。
昨年9月の市議会では、市が人工島内の敷地3.5ヘクタールを病院用地として取得することが認められた。
このとき、私たちは素人にも分かるような丁寧な説明を、と求めた。病院移転だけでなく人工島自体にも反対がある。
私たちは「なぜ市がこう考えるのか。その根拠となる事実やデータを具体的に示しながら、徹底的に話し合わなければ反対はなくなるまい」と考えた。
だが、議会の論議は不十分だった。
そして、今年に入って、こども病院の移転反対運動に再び火が付いた。
現地建て替えの試算をめぐる不正確な議会答弁などが明らかになったのだ。
市が委託したコンサルタント会社(東京)の試算は約85億円だった。建て替えにしては安すぎるとの声が出て、市がゼネコン3社に聞き取りした結果、約1.5倍に見積もりが膨らんだ。
議会答弁では、聞き取りした日も職員も正確さを欠いていた。肝心な聞き取りのメモなども廃棄していた。
これでは不信感が募るのも仕方ない。慎重に1つ1つ手順を踏んでいくべき問題だったのに、なぜこんなに軽々しく扱われることになったのか。
民間資金などを導入するPFI方式の採用や独立行政法人化もそれぞれ難しい問題だ。手順に疑念が生じたのなら、やり直した方がいい。回り道もやむを得ない。このままでは市長にごり押しの印象が残り、議会の威信も傷ついたままだ。
=2009/03/16付 西日本新聞朝刊=