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社説:郵政民営化委 改革の原点はどこへ行った

 郵政事業が民営化されてまもなく1年半が経過する。過疎地では旧簡易郵便局閉鎖などで公社時代より利便性が低下したとの指摘がなされている。ゆうちょ銀行は貯金の減少に加え、金融商品取引法施行や株価下落で手数料ビジネスの柱に位置付けていた投資信託の販売が急減している。資産の活用や売却でもかんぽの宿の譲渡問題など不透明な事例が明らかになっている。

 政府の郵政民営化委員会が13日にまとめた意見書は、株式の公開・上場による、株主目線からの市場規律の貫徹こそが、民営化を最終的に成功に導くと、民営化路線の推進を求めているが、問題点も認めざるを得なかった。民営化委の現状認識は以下のようにまとめられる。

 郵便、貯金、保険が別の会社の業務になったため、配達途上の郵便外務員への貯金引き出し依頼などができなくなったとの批判がある。旧簡易郵便局閉鎖への緊急対応もサービス内容が限定されている。年賀はがき販売などで、郵便事業会社と郵便局会社の協力関係が欠如している。

 民営化委は4分社化問題には言及することなく、グループ各社間の連携強化や業務規制緩和、新規業務を前向きに認めていくことで、利用者利便の向上を図ることを提言している。

 純粋の民間企業ならばそれでもいいだろうが、公共性を帯びた日本郵政の場合には、より踏み込んだ議論が必要だ。

 第一は、郵便物が今後とも減少していくことが確実な中で、民間企業として全国一律サービスを維持していく手立てはあるのかということだ。ゆうパックにしろ国際物流にしろ、経営を支えることにはなりようがない。郵便事業会社の100%親会社である日本郵政は将来的にも政府が株式を保有する。将来的に政府が何らかの施策を講じていくのか検討が必要だ。

 第二は、グループ各社間の連携の在り方だ。4分社化は混然一体としていた経営からの転換を図ることが大きな目的だったはずだ。現状では4社ともに日本郵政が100%の株式を保有しているが、金融2社が株式を売り出した後の連携はどうなるのか。やり方によっては、4分社化の見直しにもつながる大問題だ。

 第三は、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の業務拡大である。それが地域や利用者の利便を高める唯一の手法なのか。高リスクの金融商品ではなく基礎的な商品・サービスを提供し、決済機能を果たしていく身近な金融機関が郵便局の姿ではないか。また、地域金融機関との協調にこそ生きる道がある。

 郵政民営化の原点は、役割の終わった国営金融機関の処理だった。ところが、日本郵政の経営陣も、民営化委も金融2社頼みだ。原点を忘却していると言わざるを得ない。

毎日新聞 2009年3月16日 東京朝刊

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