養護学校を訪れた東京都議が反論もさせないまま性教育を一方的に非難したのは旧教育基本法が禁じた「不当な支配」と認定された。現場に立ち入って教育の自主性を侵した行為を猛省すべきだ。
東京都立七生(ななお)養護学校(日野市、現・七生特別支援学校)では一九九七年、生徒同士の性的交渉が発覚し、その後も性に関した問題行動が多発、学校全体で性教育に取り組んでいた。
知的障害がある子供を対象とした学校で、分かりやすい性教育として、体の部位の名称を歌詞にして歌ったり、性器模型付き人形を用いていた。
保護者との話し合いも重ねており、担当していた養護教諭は都教委の研修に講師で招かれ、授業の様子を講演したこともあった。
都議三人は二〇〇三年、この養護学校を訪れた。東京地裁が判決で認定した視察状況はこうだ。
三人は保健室で校長らに性教育に使われている人形などを提示させ「常識では考えられない」「不適切なもの」などと述べた。養護教諭には「こういう教材を使うのをおかしいと思わないか」「感覚がまひしている」と非難した。
資料ファイルを持っていこうとする都議に教諭が「何を持っていくのか教えてください」と尋ねると、都議は「おれたちは国税と同じだ」とたしなめたという。
判決は事実関係をこう認定したうえで、旧教育基本法が禁じた「不当な支配」に当たると判定している。「単なる視察だった」という都議に対し、意見交換することなく、学校を一方的に非難した違法行為だった、ともしている。
判決に三都議は「視察と指摘で過激性教育が改善された意義は大きい」とコメントした。現場に介入した意図がうかがえる。成果を誇っており、反省がみられない。都民の負託を受けた現職議員として違法行為を恥じるべきだ。
都教委は本来、政治的干渉から教育現場を守る役割がある。しかし、都議に同調し、教育の自主性をゆがめる行為に加担した。判決を重く受け止めねばならない。
性教育は研究の歴史が浅く、さまざまな方法論がある。知的障害がある子供への性教育指導はさらなる工夫もいるだろう。特別支援学校では試行錯誤しながら実践の仕方を探っているのが実情だ。
学校の努力を調べないまま、都議のいう“常識”だけで判断できる問題ではない。強引な介入や干渉は現場を萎縮(いしゅく)させるだけだ。
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