ソマリア沖での海賊対策のため、浜田靖一防衛相が自衛隊法に基づく海上警備行動を発令したのを受け、海上自衛隊の護衛艦二隻が広島県の呉基地を出港した。海警行動による自衛隊の海外派遣は初めてだ。
政府は発令と同時に、海賊対策で自衛隊派遣を随時可能とする新法「海賊対処法案」を閣議決定し、国会に提出した。海警行動は新法成立までの「応急措置」というが、国会論議を欠いたままの見切り派遣は問題と言わざるを得ない。新法成立の行方は不透明で、不安を抱えての派遣は長期化する懸念もある。
護衛艦は二週間余りでソマリア沖に到着し、四月上旬にも日本関連船舶の警護を開始するという。乗員は計約四百人で、両艦には哨戒ヘリコプターを二機ずつ搭載。特殊部隊の特別警備隊員のほか、海賊の身柄拘束に備え司法警察権を持つ海上保安官も四人ずつ配置している。
領海侵犯を想定した海警行動に基づく派遣では、警護対象は日本関連の船舶に限られ、相手に危害を与える武器使用も正当防衛と緊急避難に限定される。武器を使う場面に遭遇すれば、現場の指揮官が瞬時に難しい判断を迫られるケースもあり、極度の緊張を強いられよう。
それでも政府が海警行動を発令した背景には、国際貢献での「実績づくり」を急ぎ、対外協調を優先させたいとの思惑が透けて見える。ソマリア沖での昨年の海賊被害は百十一件に上り、四十二隻が乗っ取られ、八百十五人が人質になったとされる。国連安全保障理事会は海賊の抑止、制圧を求める決議を採択し、中韓を含む各国が艦船を派遣しているからだ。
海賊対処法案は、警護対象を日本に関係ない外国船にも拡大している。最大のポイントは、武器使用基準を緩和し、警告射撃などしても船舶に接近を継続する海賊船への船体射撃の容認を盛り込んでいることだ。
政府は「海賊対処は警察活動で、憲法問題は生じない」との立場だが、これまでの枠を一歩踏み越えた感は否めない。政府は自衛隊法を根拠にした一九九一年のペルシャ湾への掃海艇派遣を皮切りに、「国際貢献」などの名目で陸海空自衛隊を海外へ次々に派遣、その流れは年々加速している。
海賊対策を前例に、ほかの自衛隊の海外活動でもなし崩し的に武器使用基準が緩和される危険性もはらんでおり、厳格な歯止めが必要だろう。法案審議では十分に議論を深化させることが求められる。
配偶者や恋人などからの暴力「ドメスティックバイオレンス(DV)」で、二〇〇八年に全国の警察が被害届や相談で認知した件数は、前年に比べて20・1%増の二万五千二百十件に上ったことが警察庁のまとめで分かった。
年間の統計を取り始めた〇二年以降で最多となった。認知件数は毎年、増加傾向をたどっている。〇一年のDV防止法施行で、DVはプライベートな問題ではなく犯罪であり、重大な人権侵害という認識が社会に浸透してきたからだろう。
加えて昨年一月にDV防止法が改正された影響もあろう。裁判所が加害者に接近禁止命令を出す「暴力」の範囲が、身体的暴力から無言電話など脅迫行為にまで拡大されたためだ。警察庁は「被害が深刻化する前の段階での相談が増えたのでは」と分析する。
いずれにしても、これだけ多くの人がDVに苦しめられている現実を重く受け止める必要がある。表れた数字は「氷山の一角」といわれる。潜在する被害者が声を上げやすい環境と、支援・救済のシステムを充実させなければならない。
改正DV防止法では、市町村に対して配偶者暴力相談支援センターの設置のほか、関係機関との連携強化などを盛り込んだ基本計画の策定を努力義務とした。だが、全国的に対応は鈍いようだ。
例えば岡山県では、相談支援センターを設置しているのは岡山市だけだ。基本計画を策定した市町村はないという。財政難などが理由とみられる。
DVは精神的苦痛のみならず、傷害や殺人事件などに発展するケースも少なくない。身近な地域で対処する体制整備は急務である。国や県のバックアップ強化が望まれる。
(2009年3月15日掲載)