「僕たちが見てないと、日本人が来て食べちゃうからね」。数年前、メキシコで鯨を保護する男性がそんな冗談で人を笑わせていた。調査捕鯨への反感は米英豪に限らず、中南米でも根深い。陰でずるい事をしていると思われているふうだ。
鯨といえば、60年代、薄暗い魚屋にあった毒々しい色の切り身を思い出す。子供の味覚だが「甘い」という第一印象だった。給食や缶詰でも食べたが、さほど思い入れはない。
先の国際捕鯨委員会(IWC)の会合でローマに来た日本の代表団は14人と参加国では最大規模だ。今後5年、日本は南極海でのミンククジラの調査捕獲を段階的に減らす一方、日本沿岸の捕鯨を再開するといった案を議長が示した。だが、全廃を求める米英豪など反対派も日本も譲らず、進展はなかった。
日本のイメージを落としてまで、なぜ遠洋捕鯨にこだわるのか。代表団は会見でこんな順序で答えた。「産業の保護」「一度引けば今度はマグロが狙われる」「豪州人はカンガルーを食べるが、日本人は何も言わない」「牛を食べないインド人は他国の人に食べるなとは言わない」「鯨は多種で、数が回復しているものも多い」
逐一反論されそうな言い分だが「続けたい」という懸命さは伝わる。代表団は今回、邦人向けの会見しか開かなかった。「(反捕鯨宣伝に)うまくやられている」と嘆くのに、外国メディアには訴えなかった。NGOの会見傍聴も断っていた。「いろいろ言っても伝わらなくて」とこぼすが、反対派と本音で論じる場面をもっと世界に見せた方がいいのでは? こそこそとした印象を消すためにも。
毎日新聞 2009年3月15日 0時10分