リーク問題に関する小倉秀夫弁護士の見解について

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 東京弁護士会所属の小倉秀夫弁護士は、以下のように述べます。

 まず、私の新館ブログの「彼らが政権を取った暁には」というエントリの

 民主党は、最近の報道内容は検察のリークによるものだとして検察を強く批判していますが、報道内容(つまり検察のリーク内容)が虚偽であるとかでっち上げであるという批判は見あたりません。
 検察のあり方を批判するのであれば、検察が法に基づかないで行動していることを根拠に批判すべきです。

という部分を引用した上で、

 しかし,検察が,捜査過程に関する情報を,虚実交えてマスメディアに「リーク」すること自体が「法に基づかない」行動です。

とおっしゃっています。

 私も、小倉秀夫弁護士が引用される前の部分において

 逮捕された秘書の容疑事実は虚偽である、つまり検察は冤罪をでっち上げている、という批判であれば民主党のお怒りは理解できます。

と書いてますように、検察が意図的に虚偽情報のリークをすることは許容できないと考えています。
 小倉弁護士はたぶん意図的にその部分を引用せずに、私が「虚実交えてマスメディアに『リーク』すること」を許容しているかのように印象づけたいようですが、これはいつものことです。
 このブログの他のエントリをご覧になればよくおわかりだと思います。

 小倉弁護士が、「検察が,捜査過程に関する情報を,虚実交えてマスメディアに『リーク』すること自体が「法に基づかない」行動です。」(強調はモトケン)と述べていることからしますと、確実な情報をリークすることも虚偽の情報をリークすることも同列においておられるようですけど、私は同列に論じていいものかどうか決めかねています。

 虚偽情報のリークは問題なしにアウト(つまり違法)でしょう。
 不確実情報のリークもアウトだと思います。
 では、確実な事実(少なくともリーク時点では確実と思われた事実)についてはどうでしょうか。
 この問題に関するエントリが「正面から捜査機関からの捜査情報のマスコミ提供を考えてみる」です。
 ある程度明らかになった捜査情報に基づいて、一般市民にさらなる情報提供を求めるということもあるわけですので、捜査情報の提供が直ちにまたは当然に違法となるかどうかについては正直自信がありません。
 一般市民の多数意見はどうか興味があるところです。

矢部弁護士が検察官時代どのような法の理解の元にどのような行動をとっていたのか知るよしもないのですが,

 そりゃご存知ないでしょうね。
 信用していただけるのであれば言いますけど。
 私が担当していた事件においては、マスコミへのリークは捜査の邪魔になるだけで、捜査上なんのメリットもありませんでしたから、リークしたことはありません。

我が国の制定法の下では,検察庁ないし検察官には,被疑者又はその関係者について,捜査活動によって新たに知った情報もしくはそのような情報に見せかけた虚偽又は真否不確定の情報を非公式に特定の記者に提供してマスメディアを通じて流布させ,特定の世論形成を図る権限は与えられていません。

 たしかに検察には、特定の世論形成を図る権限は与えられていません。
 しかし、本件において、検察は特定の世論を形成しようとしているのでしょうか?
 外形的に見れば、西松建設に対して外為法違反で着手した捜査が政治資金規正法違反にまで伸びた、という特捜部のいつものパターンの事件に過ぎません。
 特捜部は捜査の結果証拠が固まってきたので強制捜査に着手したというのが最もシンプルな見方であって、これまでの経過の中のどのような事実を根拠にして、検察がどのような特定の世論を形成しようとしていると言うのでしょうか。

 その意味で,一定の政治的な意図に基づいて捜査過程に関する情報を虚実交えてマスメディアに「リーク」する検察の行動を,それにより支持率低下の危険がある民主党が問題視するのは正当なことであると言えます。

 これも同じですね。
 小倉弁護士は、何を根拠に「一定の政治的な意図に基づいて捜査過程に関する情報を虚実交えてマスメディアに「リーク」する検察の行動」と断定されるのでしょうか?
 そもそも、これまでマスコミによって報じられた事実のうちで、どの部分が検察のリークであるのか小倉弁護士には判別がつくのでしょうか?

 また「検察の一定の政治的意図」というのはどういう意図なのでしょうか?
 民主党の政権奪取を妨害する意図とおっしゃりたいのでしょうけど、検察にそういう意図があるとどうして言えるのでしょうか?
 そんなことして検察に何かいいことがあるのでしょうか?
 弁護士らしからぬマスコミかぶれの感覚です。

 私は検察を批判するなと言うつもりは毛頭ありません。
 私もしょっちゅう批判しています。
 しかし、批判するのであればそれなりの具体的な根拠をもって批判すべきだと思うのです。
 この小倉弁護士のエントリには、具体的な批判の根拠は何もありません。
 国策捜査批判と同じレベルです。

そして,このような「リーク」は被疑者が政治家又はその関係者でない場合にもしばしばなされ,これにより公訴事実とは無関係な情報が流布されて必要以上に被疑者又はその関係者の名誉が毀損されるという事態が生じていますので,

 まだ起訴されていませんので公訴事実と関係があるのかないのかはよく分かりませんし、報道から読み取れる被疑事実との関連性がない報道はなかったように思われますが、本件はともかく一般論としては小倉弁護士が指摘するような事態が望ましくないことはたしかです。

民主党が政権を取った場合にそのような非公式の「リーク」を規制するということであれば,それはそれで望ましいのではないかと思われます。

 ここの重大な疑問が生じます。
 なぜ、「民主党が政権を取った場合に」という条件がつくのでしょうか?
 小倉弁護士自身が指摘した情報リークの弊害は、民主党の政権奪取となにか関係があるのでしょうか?
 どの政党が政権に就こうが、等しく問題になるのではないでしょうか?

 捜査情報のリーク問題は、何も特捜部の事件に限ったことではありません。
 通常の刑事事件の警察捜査においてもより一般的に問題になります。

 しかし、政権取得後の民主党がこの話を持ち出せば、誰もそんな一般論では考えないでしょう。
 民主党が政権を取った後で、リーク規制に名を借りて検察の行動に制約を加えようとすれば、小倉弁護士が本件における検察の捜査を一定の政治的意図に基づく行動と考える以上に、民主党による政権を背景とする検察に対する報復行動に見えるのですが、小倉弁護士はそれを「望ましいこと」と考えるのでしょうか?
 もしそうであるならば、弁護士として権力濫用に対する信じられない鈍感さです。
 それとも、検察の権力濫用許されないが民主党による権力濫用は望ましいということなのでしょうか?

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コメント(1)

モトケン先生、エントリを新たに、お手間をお掛けしてすいません。
私は小倉弁護士の主張が、なんとなく一方通行のような違和感があったものですから。

>これまでマスコミによって報じられた事実のうちで、どの部分が検察のリークであるのか小倉弁護士には判別がつくのでしょうか?
(中略)
>国策捜査批判と同じレベルです。

上記引用部までのところが、私が特に小倉弁護士に対して???と感じてたところでした。違和感がかなり氷解しました。ありがとうございます。

素人感覚なんですが、捜査情報というのはあまり外へ漏れてはいけないと思います。ですから、起訴の段階で始めて公式記者会見をすれば良いのではないでしょうか。
我々のレベルですと逮捕とか捜査という情報を見聞しただけで、どうしても被疑者に対し、「何かしでかしたな」というような悪いバイアスを掛けてしまいがちになってしまいます。

検察が人権を無視するかの如くの横暴な事をしていないかどうかという外からの中立的な監視は必要だとは思いますが、かといって、どんな権力にも慮ることなく、世の中を正して行くという独立した機関で限りなくあるべきだとも思うのです。

そんなように、検察はかなりの沈黙を要しますので、(だけどマスコミが国民が知る権利だと突っ込んできたりしますが)司法関係者の中でも検察の方々は、国民の縁の下になり、目立たない存在になってしまいますね、そして、ちょっと目立った動きをすると、非難の的にすぐになってしまったりしますので、かなりの正義感がなければやってられないですね。司法関係の皆さんほとんどそうかもしれません。ご苦労様です。m(_ _)m

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