今回は6週間ぶりにリンのKLIMAX DSの近況をお伝えすることにしよう。年初にDS本体とNASをネットワークに接続し、iPhone 3G/iPod touchで動作するコントローラーソフトで操作するという環境が実現した。
PCのリッピングソフトとしてしばらくExact Audio Copyを使っていたが、最近はMacで動作するMaxを追加し、WindowsとMacの両方でCDデータの抽出作業を進めている。NASに取り込んだ枚数はいまの時点でざっと200枚前後だろうか。数が増えると枚数を数えるのが面倒になるので、これは正確な数字ではない。
さらにもう一つ、最近はダウンロードやDVD-Rで高音質音源を入手し、NASに保存する作業が加わったので、CDのリッピングは少しペースが落ちてしまったのである。しかし、200枚前後のデータが入っていると、そのなかから多様な試聴ソースを選ぶことができるので、いまやDSは筆者の試聴室のメインソースになりつつある。自宅でアンプやスピーカーなどを試聴する際も、CDやSACDに加え、DSが活躍する機会が確実に増えている。
44.1kHz/16bit音源を上回る高音質音源を再生ソースに加えることは、DSを導入する際に最初から楽しみにしていた。wav形式などの高音質音楽データはPCでも再生できるが、以前も書いた通り、オーディオシステムのなかにPCを組み込むことは避けたいし、高音質データの伝送方法とDACの選択肢にも決定的なものが思い浮かばない。その点、HiFi再生に重点を置いたDSなら不安はないというわけだ。
マスタークオリティの高音質データが一番豊富に揃っているのはリンレコードのサイトである(
http://www.linnrecords.com/)。同サイトの配信サービスはMP3、CDクオリティ、スタジオマスターの3種類のデータを用意しており、CDを上回るアルバムのデータは、現時点で各ジャンル合わせて73タイトルが入手できる。サンプリング周波数とビット数はソースによって異なり、44.1kHz/24bit、48kHz/24bit、88.2kHz/24bit、96kHz/24bitのほか、192kHz/24bitのアルバムも7タイトルが揃っている。データ方式はWMAまたはFLAC、価格は32または29USドルで、日本からも問題なく購入できるが、データのサイズが1GBを超えるため、ダウンロードにはそれなりの時間がかかることを覚悟しておきたい。
ダウンロード以外の入手方法として、米国のReference Recoridingsが始めたHRXシリーズがある(
http://www.referencerecordings.com/)。176.4kHz/24bitなどの高音質データを非圧縮のwavデータでDVD-Rに記録し、パッケージメディアとして販売するシステムで、現在7タイトルがリリースされている。PCでの高音質再生を想定したシリーズだが、DSはwav形式にも対応しているので、問題なく再生できる。キングインターナショナルが輸入しているので日本でも入手できるが、現在は手元に届くまで、かなり時間がかかるようだ。
高音質音楽配信は日本でも6月頃から本格的に指導する予定だ。A&Vフェスタでクリプトンが発表した配信サービス(
関連ニュース)は、96kHz/24bitなどの高音質データを、ダウンロードのほかディスク形式での販売も含めて多様な方法で取り扱うというもの。リンレコードとリファレンスレコーディングスの手法を両方取り入れた販売方法である。当初からカメラータレーベルの膨大なカタログが揃うので、クラシックファンは大いに注目しておきたい。
ダウンロードまたはディスク経由で入手したデータは、PCのファイルと同じ方法でNASにコピーすることができる。いったんコピーしたデータはコントローラソフトに他のアルバムと同様に表示されるため、CDをリッピングした場合と同様、すべて手元の画面を見ながら簡単な操作で呼び出すことができる。
操作の手軽さとは裏腹に、再生音のクオリティには目を見張るものがある。ヘンデルの《エイシスとガラテア》は、SACDと同等またはそれ以上の見通しの良さと声の質感の柔らかさが素晴らしく、演奏会場の空気がそのままリスニングルームにそっくり移動してきたような臨場感を味わうことができる(データ形式:FLAC 88.2kHz/24bit)。Barb Jungrの《Walking in th Sun》は、声のニュアンスの豊かさと、ウッドベースなどアコースティック楽器の実在感がCDとは一線を画している(データ形式:FLAC 44.1kHz/24bit)。
リファレンスレコーディングスのHRXからは、シェイクスピアの《テンペスト》の付随音楽(サリヴァン&シベリウス)を収めたアルバムを聴く。176.4k/24bitの非圧縮データなのでデータ量は4GBを超えるが、いったんNASに保存してしまえば操作はディスクを再生するより手軽。
サウンドは遠くまで見渡せる透明感とダイナミックレンジの広さが圧倒的で、オーケストラの各楽器の音色の豊かさ、しなやかさが耳と脳を心地よく刺激する。登山にたとえると、CDの音は8〜9合目あたりで樹々の間から景色を見ているようなイメージだが、スタジオマスタークラスの音は、山頂にたどり着いて360度ぐるりと全景を見ている感覚に近い。遮るもののない景色は山頂に上らないとわからないものだが、音にも同じことがあてはまる。いったん山頂からの景色を楽しむと、しばらくは下りる気がしなくなるのだ。